その3 ひとり目の仲間ができました

 とりあえず町をぶらぶらと歩いていきます。誰か強そうな人いないかな、と辺りを見回しながら歩いていると、突然自分の脚に何かがぶつかるのに気づきました。

「いたたた…」

 下を見ると、まだ年端もいかない少女が尻餅をついていました。

「あ、ごめんなさい…」

 今にも消えてしまいそうな声で謝る少女は、何かを思い出したかのように立ち上がり、再び走り出そうとしました。が、その少女の襟を、誰かがつかみあげました。

「やっと捕まえたぞ、このドロボウ猫め」

「あ~、ご、ごめんなさ~い」

 少女は目に涙を浮かべて謝りますが、襟をつかむ男は離そうとはしません。

「あの、その子がなにかしたんですか?」

「ああ。こいつ、うちの団子食い逃げしやがったんだ」

 見ると、確かに少女の口元には団子のかけらがついているのがわかります。桃太郎は少し考えた後、その店の主人(?)に提案しました。

「あの、そのお団子の分のお金は俺が払いますから、許してあげてくれませんか」

 そう言って、桃太郎は小判を一枚渡しました。店の店主(?)は大喜びで帰っていきました。

「(少女)めでたしめでたし」

「(桃太郎)めでたしじゃない」

 桃太郎は少女の手を引いて人気の少ない川沿いの土手まで行きました。

「あの、どうしたんですか?こんなところにわたしを連れてきて。こんな人気の……はっ!?」

 少女は自分の着物の裾を抑え始めました。

「あ、あの、助けていただいたことには感謝します。ありがとうございます。でも、そんな、たしかにお金はありませんけど・・・」

「おい、何言ってんだ?」

「でも、わたし、体で払うなんて、そんな・・・」

 ごつん!

「い、痛い~」

「何言い出してんだよこのマセガキは」

 桃太郎はゲンコツを食らわせた後、少女に隣にすわるように促しました。

「俺はただ話が聞きたかっただけだ」

 ぐぎゅるるる~~~

 桃太郎は話す前に懐から買っておいた名店のキビ団子を取り出し、少女に差し出しました。少女は団子と桃太郎を交互に見ていましたが、

「食えよ」

 という桃太郎の声に、少女はものの数秒で差し出されたキビ団子を平らげました。

「お腹いっぱいです~」

 満足げな少女に、桃太郎は優しく問いかけました。

「君、名前は?」

「くりすてぃーな」

「…本名は?」

「りん」

「そうか、じゃあリンは今歳いくつ?」

「九つ」

「どこに住んでるの?」

 この質問に、少女は顔を曇らせました。

「あ、ごめん。言いたくないんならいいんだ」

「あの……」

 少女は不安げな顔を上げて訊きました。

「これって、ナンパですか?」

「違うわボケェっ!!」

 思わず叫んでしまった桃太郎は、呼吸を整えて言いました。

「お父さんとお母さんは?」

「…いない…」

「そうか…」

「お母さんが博打で借金して、それに愛想をつかしたお父さんが男を作って逃げちゃったの。その後、お母さんは夜の歓楽街に消えたままで……」

 桃太郎は頭を抱えてしまいました。これもギャグなんだろうか、それともホントに真実なのか?そもそもお父さんとお母さんの立ち位置逆だろ、ってかお父さんが男を作って?この時代のダイバーシティか?

「それから、ずっと一人で道端でいろいろと売って生計を立てていたんですが、うまくいかなくて……」

 少女が構わず話し始めたので、桃太郎はそれを黙って聞いていました。

「売るものがきっと悪かったんです……」

「なにを売ってたの?」

 少女は懐から手に収まるほどの小さなものを取り出して、桃太郎に見せました。

「ジッポです」

 …………桃太郎は言葉を失いました。

 見ると、それは確かにライターです。見た目は百円ライターに見えます。試しに手にとって火をつけてみました。

チッ…、チッ…、ボッ――

 火がつきました。

「みんな、妖術だって言って怖がるんです。だから、全然売れなくて……」

 桃太郎は何をどうつっこんでいいのかわかりません。とりあえず、

「そうか」

 とだけ言っておきました。それと、念のために訊いておきました。

「これ、どうやって手に入れたんだ?」

「ジッポですか?わたしが作ったんです」

 ますますわけがわからなくなりました。

「だってこれは……」

 桃太郎の手にあるライターは、油が入っている部分が透明になっています。どうやったってこんなの子供に加工できるわけありません。

「ガラスだろ、これ」

 プラステチックではないにしろ、ガラスで、しかも九歳児がこんなことできるはずがありません。しかし、少女はしれっと答えます。

「ええ。加工には少々手間取りましたが、なんとか」

「どうやって?」

「砂を取ってきてその中から硝石を取り分けて、それを炉まで―――」

 桃太郎は驚きました。彼女は江戸のエジソンでしょうか。

「なあ」

 桃太郎は少女に向かって言いました。

「俺と一緒に来ないか?」

「えっ?」

 少女は驚いた表情を崩しません。

「ちゃんと三回飯が食えるぞ。なんならおやつもつけてやる」

 少女の心が揺らぎました。

「あの、それってつまり……」

「うん?」

「わたしに惚れたから嫁に来いってことですか?」

 桃太郎は黙って立ち上がってスタスタと歩きだしました。

「ま、待ってくださ~い」

 少女は桃太郎の脚にしがみつきました。

「ごめんなさ~い。わたしが悪かったです~」

「で、来るのか?」

「は、はいぃ。ところで、これからどこへ?」

「ああ、とりあえずまだ仲間集めだな」

「仲間、ですか?」

「ああ、鬼退治のためのな」

 その言葉を聞いて、

「ええ~!?鬼退治ですかぁ!?い、いやです~。怖いです~」

 などとリンが言うと思ってた人も多いと思いますが、現実はこうです。

「鬼退治ですか?面白そうです~」

「怖くないのか?」

「怖くないわけじゃないですけど、でも、一回見てみたいと思ってたんです~」

「そうか。じゃあ、次の仲間を探しに行くか」

「はい」


火気(?)管制役 リンが仲間になった。

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