その2 桃太郎は旅の準備を始めました

 ――それから十六年後

 いつから十六年かというと、あのおじいさんとおばあさんが巨大な桃?を発見してから十六年後です。

 時代は大きく動き、今はわかり易く言うと江戸時代。

 とある藩の城下町を、一人の少年が歩いていました。見た目は時代に合った、ランク的には中の上くらいの身なりの少年です。

 彼の名は桃太郎。未来の世界から受精卵の状態で送られてきた未来人です。どれくらい未来かというと、少なくとも二一一五年よりは昔であるはずです。

 桃太郎は、有機培養擬似子宮“桃の人工水”の中でおよそ四年を過ごし、その後町の庄屋に拾われ、特に不自由なく過ごしてきました。

 ちなみに、“桃太郎”という名は庄屋にではなく、自分で名乗ったものでした。なぜか少年は名前を訊かれたときにそう答えたのです。

 桃太郎は十六歳までは普通の男の子として育ちましたが、その年のある日、桃太郎とともに回収された巨大な桃が再び起動したのです。その中から、桃太郎の身の丈はあろうかという大きな刀が出てきたのです。それを手にした瞬間、桃太郎は変わりました。

「やっとこの時が来たか…」

 刀を手にした桃太郎は顔つきが急変し、まるで全てを悟ったかのような顔をしていました。そして、すぐに桃太郎は庄屋の主人に頼みました。

「キビ団子を作ってくれ。これから鬼退治に行く」

 桃太郎には大きな野望がありました。

 彼をこの時代に送った未来人は、ある目的のため、この桃太郎をわざわざこんな時代に寄こしたのです。その理由はなんなのか?

 ただの興味本位です。とくに理由はありません。なんとなく面白そうだから。理由をつけるならこれが妥当でしょう。その未来人は、ただ鬼が退治したかっただけなのです。しかし、決して困ってる人を助けたいとは思っていませんでした。鬼を退治して、あわよくばハーレムじゃあ!くらいは思ったかもしれませんが、ただ単に鬼の殲滅を楽しみたかった。ただそれだけです。

 しかし、それには大きな障害がありました。

 この時代のタイムマシンはいろいろと語るにはかったるい理由で成人を送ることができなかったのです。だから、わざわざ手を加えた受精卵を送ったのです。そして、ある年齢に達したら自分の意識が目覚めるように調整を加えました。

 よって、現在の桃太郎には彼を送った未来人の意識が入っているのです。

 前置きはこれくらいとして、とにかく桃太郎は鬼退治を決行するため、その下準備のためにこうして町を歩いているわけです。

 未来人が参考にしたおよそ百年前の文献によると、桃太郎はキビ団子をエサに犬、猿、雉を仲間にせねばならないようです。つまり、パーティは四人というわけです。

 桃太郎は早速キビ団子を購入しました。当初は家の人に作ってもらう予定でしたが、誰も作り方を知りませんでした。しょうがないので、桃太郎は町でキビ団子を買い求めることにしました。

 キビ団子を無事買い終えた桃太郎は、早速犬と猿と雉を探しに行きました。

 すると、早々に犬が見つかりました。しかも、都合のいいことに、腹を空かしている模様です。桃太郎はキビ団子を犬にあげました。

「キビ団子あげたから鬼退治に協力してくれ」

 キビ団子を食べ終えた犬は言いました。

「(訳)なんでそんなことをしなければならないのです」

「キビ団子食べたじゃん」

「(訳)こんなキビ団子1つで命かけられるかってんだこのアホ!」

 そう言って、犬はどこかへ行ってしまいました。

 桃太郎は考えました。犬の言うことも尤もだと。もし自分が一宿一晩の恩義を持ったとしても、命をかけようとは思いません。そうなると、きっと猿もダメだろうな、と思いました。雉なら頭悪そうだし、仲間にできるかな、とも思いましたが、やはり諦めました。そもそも、冷静になって考えてみると、あんな本能で生きてるような動物を仲間にしたところで、彼らに何ができるというのでしょうか。犬と猿はなんとか役に立ちそうですが、どう考えても雉は役に立ちそうにありません。せめて鷹か、もしくはダチョウあたりを仲間にしたほうがいいのでは、と思いましたが、この日本でそれは酷であろうし、そもそも鷹なんて怖くてたまりません。鬼は怖くないのか、というつっこみはあえてしないでください。桃太郎は鬼より鷹が怖い。そういうことにしておきましょう。

 そういうわけで、桃太郎は人間を仲間にすることにしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る