5.電車通学

 中学生になって、電車通学になった。制服を着て、お弁当を持って学校に行く。授業は小学校のときより難しく、かつ、授業時間数も多かった。

「ねえ、せいは学校、大変?」

「あー、まあね。ぼちぼち。美月みつきは?」

「うん、あたしも。受験終わったら楽になると思ったんだけどな」

「そうだね。まあでもさ、高校受験ないし、内申点、あんま気にしなくていいから、そこはよくない?」

「それはそうかも」

「聡の話聞いてると、公立も大変そうだよ」

「うん、それはそう思う」

「学校、遠いのはかったるいけどな」

「うん」

 星とはときどき帰りの電車で会う。たいてい、ちょっと会釈して終わる。お互い中学校の友だちといることが多かったから。

 中学校からの電車通学は大変だ。少なくとも、あたしは大変だ。毎日学校に行くだけでぐったりと疲れてしまっていた。

 だから、帰りの電車で、ほんとうは席を譲った方がいいんだろうなという場面でも、なかなか席を立つことが出来なかった。あるいは、席を譲ろうと思っても、勇気が出なくて「どうぞ」の一言が出てこなかった。

 でも、星は違った。

 ある日、帰りの電車で星を見かけた。少し遠くだったし、視線も合わなかったので、ただ見ていた。星は最初、友だちと座席に座っていたが、幼稚園くらいの子を連れた親子が来たら、すぐに座席を譲った。しかも、いっしょに座っていた友だちも立たせて、お母さんと子どもを並んで座れるようにしたのだ。

 星、すごい、と思った。あたしは自分が譲る勇気も持てないのに、星は自分が譲るだけでなく、友だちをも巻き込んで席を譲った。しかも、とても自然に。

 星、いいな、と思った。

 あのときから、なんとなく星のことが気になっていた。

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