6.結婚式

 空を見上げると、鳶が何羽も旋回をしていた。そして、白い半月が鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうの右手の空にあった。

「そういえばさ」とせいが言う。

「うん」

「小さいころ、ここに来たとき、結婚式見たよ」

「へえ」

「和装の新郎新婦が歩いていて、なんか、感動した」

「いいなあ、見てみたい」

「きれいだったよ」

「うん」

 なぜか、自分と星が新郎新婦となって歩いている姿を想像してしまい、どきまぎした。

「オレさ、覚えてないけど、お宮参りも七五三も、ここでやったんだ」

「そうなんだ」

「あ、七五三はちょっと覚えてる。着物着たよ」

「見てみたい!」

「おう、今度写真探しとくよ」

「うん!」

美月みつきのも見せてよ。着物着たんでしょ?」

「うん、着物着たよ。写真、あるよ」

 ねえ、それはいつ? いつ見せてくれるの? あたしはいつ見せればいい?

 あたしは「いつにする?」と言い出せないまま、また視線を下に落とした。

 集団が動いて、星とはぐれないように歩く。後ろから押されて、自分が行きたい方になかなか進めない。

「美月」

 鎌倉駅のときのように、星がひっぱってくれて、そしてまた手をつないだ。さりげなく。

「はぐれるから」

「……うん」

 胸がいっぱいになって、うまくしゃべることが出来なかった。

「美月、寒くない?」

「大丈夫だよ」

「手、冷たいから」

「いつもなの。だから、平気。……星の手、あったかいよ」

 星が握る手に力をこめた。……あったかい。

 午後の太陽が落ちて行き、橙色の光が鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうをくっきりと照らし出した。そして、鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうを覆う緑の木々は陰影を作り出していて、とてもきれいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る