4.ふたり

 泣きたくなったそのとき、「みんな、いなくなっちゃったね」とせいの声が上から降ってきた。星はあたしの少し後ろにいた。星は背が高いから、すぐに分かる。

「星、背が高いけど、みんな見えないの?」

「うん、分かんないなあ。気づいたらいなくなってたんだよね。ゲームしてて、ゲームがかたまったーって思って顔上げたら、いなくなってた」

 あたしは星の言い方に笑った。泣きそうになっていた気持ちはどこかに飛んでしまった。

「スマホ、使えないね」

「うん。重い。ゲーム、出来ない」

「Twitterも見れないよ。LINEも」

 あたしたちは諦めてスマホをしまった。

「ね、あの誘導のひとの制服、かっこいいね」

「ほんとだ。ワンピースの空島に出てくるキャラの制服に似てない?」

「似てる! ……ねえ、星はどんなゲームしてるの?」

「いろいろ。――いま、スマホ見れねーから、あとで見せるよ」

「ありがと」

 止まったり動いたりしながら、ゆっくりと進む。

 本殿が見えているのに、なかなか辿りつけない。

「ねえ、あれ、成人式かな? ほら、左のモニター」

 星が言う方を見ると、モニターに着物を来たひとたちが並んでいた。儀式のような様子で、確かに成人式に見えた。

「ほんとだ、成人式だね。……きれいだなあ。いいなあ、着物」

 数年前まで小学校の卒業式では、女子は袴を着るのが流行っていたけれど、最近禁止されて袴を着ることが出来なかったので、残念に思っていた。和装には憧れがあった。

「うん。オレたちはまだ先だけど。……美月みつき、着物、似合うよ」

「え?」

 星はにっこりと笑った。

「星も着物、着るのかなあ?」

「いやあ、オレは男子だし、きっと着ない」

「そう? 見てみたいな」

 星の顔を直接見ることが出来なくて、視線を下に落とす。

 ――ふと斜め前を見ると、空間があって、よく見ると小学校低学年くらいの兄弟がいて、お母さんらしきひとが綿菓子をあげていた。

「綿菓子」

「え?」

「あ、ごめん、あそこ、お母さんが綿菓子あげてるなって」

「ほんとだ……一生懸命食べてる」

「うん、かわいい」

 自分も一年前は小学生だったことなど忘れて、そう応える。この一年で、なんだか随分大人になった気がした。

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