3.人混み

 参道は両脇に桜の樹が植えられていた。冬なので葉もなくて寂しい感じがしたけれど、よく見ると既に芽がついていて、今から春に咲く準備をしているんだなあと思った。

 みんなスマホでTwitterを見たりLINEを見たりゲームをしたりしながら、おしゃべりをして歩く。歩きスマホなんて、ママが見たら絶対怒るだろうけど。

「十連ガチャだ!」「レア来た!」なんて男子たちは言っている。あたしと琴子はスマホで写真を撮ったりもしていた。

 鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうまで交通規制があり、警官が誘導を行っていた。参道は、混雑はしていたけれど、まだゆっくりと歩くことが出来た。でも鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうの中に入るとさらに参拝客で混み合い、動けなくなってしまった。

 両脇には出店が並んでいて、あたしたち参拝客はロープで仕切られた中で順番を待った。

 バナナチョコ、食べたいなあ。

 ぼんやりそんなことを思っていると、「ロープの中をゆっくりお進みください」というアナウンスが流れる。ふと見ると、黒い帽子をかぶり、ベルト部分や肩のアクセントは黒色の、紅のロングコートを来たひとが誘導のアナウンスをしているのが目に入った。高いところから、「ロープの中を……」と言っている。あの服、なんかちょっとかっこいい! 

 じっとそのひとを見ていたら、ふいに集団が動いたので歩く。

 押されるまま歩いているうちに、ふと気づくと隣にいたと思った琴子がいなくなっていた。

「琴子⁉」

 集団に埋もれて、琴子が見えない。琴子だけじゃなくて、他のみんなもいない。

 急いでスマホを見る。

 でも、重くてLINEもTwitterも開けなかった。

 ……人がいっぱいいるからだ。――つながらない。

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