2.出発

「そろそろ、電車来るんじゃない?」

 聡が冷静に言うと、みんな「ほんとだ!」と改札へ向かう。

「初詣、みんなで行くの初めてだね!」

 琴子が嬉しそうに言う。

「うん。鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうにみんなで行くのも初めて」

「最初は江島神社えのしまじんじゃに行こうって言っていたんだよね」

「でも、江の島は年末も行ったしよく行く場所だし、たまには違うところにしようって、鶴岡八幡宮つるがおかはちまんぐうにしたんだよね」

 ふふふと琴子と笑い合う。

 男の子三人はスマホでゲームをしているみたい。

 あたしはたっぷりとした黒のセーターの裾を直した。

美月みつき、今日、なんか大人っぽいね。かわいい」

「そう? ありがと。琴子もかわいいよ」

 あたしは思惑を見透かされた気がして、どきどきしながらそう応える。でも、実際、琴子はかわいかった。チェック柄のミニスカートにジャケットを羽織っていて、全体を茶系でまとめている。ミニスカートからはすらりと脚が伸びていて、元気な琴子によく似合っていた。

「ありがと!」

 そう笑顔で琴子が言ったとき、電車が来てみんなで乗り込んだ。

 向かい合わせに男女に分かれて座る。真正面にせいが座っていて、座ったとき目が合う。星がにこっと笑ったので、あたしも笑い返す。……それだけでもう、どきどきした。

 星はどんなゲームをしているのかな。今日聞いてみよう。同じゲームが出来たら嬉しい。

 車内はそれなりに混雑しているけれど、満員電車ってほどじゃない。初詣とは言え、お昼ごはんを食べてからの集合だったからだ。年明けすぐの時間は混んでいただろうな。深夜の初詣は憧れるけど、あたしたちは中学生だからお昼ごはんを食べてから集まった。年越しはみんなで、LINEでおしゃべりしていた。あたしたちは小学校を卒業して、違う中学に通っていても、LINEグループでずっとつながっている。みんな忙しいから、しょっちゅう会うわけじゃないけれど、長期休暇のたびに大樹が号令をかけて、みんなで集まっている。この冬休みは年末に江の島にみんなで行き、そのとき初詣も行こう! ってなったんだ。


 鎌倉駅はさすがにすごいひとで、駅員さんが誘導をしていた。あたしは人混みを歩くのが苦手で、みんなから遅れそうになってしまう。はきなれないロングスカートが階段を下りるときに邪魔になり、ますます遅れてしまい、みんながどこにいるのか分からなくなってしまった。

 どうしよう。

 背か低いので人混みに埋もれながら、みんなを探す。

 そのとき、腕をぐいっとひっぱられ、顔を上げると星だった。

「こっち!」

 なりゆきで手をつないで、みんなの方へと向かう。

 手!

 あたしはどきどきしながら、みんなと合流した。そのとき、星はとても自然に手を放した。

 星の手、とてもあたたかかった。あたしの手、きっと冷たかっただろうな。冷え性だから。

「せっかくだから、参道から行こうぜ」

 大樹が言って、小町通ではなく参道から行くことにする。

 駅を出て行くと、大通りが歩行者天国になっていた。

「あ、見て! スパイダーマンがバイオリン弾いている!」

 好奇心の強い琴子が目敏く見つけて言う。

「ほんとだ!」

「でもあのスパイダーマン、ちょっと太ってるね」

 と、これは大樹。そしてみんな笑う。

 あたしたちはわくわくしながら、参道へと向かった。

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