魔女と子守とクラウドメイカー
とある国の大通りに面した小さな店の中は薄暗く、物で溢れかえっていた。
だが、放置されているかのような物の上には埃は一切なく、店内には塵一つ落ちてない。
とんがり帽子を被り、すっぽりと体を覆うようなローブを着た女性の店員は、気だるそうに部屋の四隅に置かれていた箱を開けては中から何かを取り出してゴミ袋の中に入れていた。
だが、何かに気付いた様子で「よいしょっと」と小さな声で呟きながら立ち上がると、お店唯一の扉を見た。
数秒後、中に入ってきたのは、たくさんの子どもたちを連れた気が強そうな女性だった。
店内を見回しながらずんずんと店員の下へと進んでいく。
「子守が、こんな所に何の用だい? ここは保育園でも、遊園地でも、子どもの遊び場でもないんだけどねぇ」
「欲しいもんが手に入ったらすぐ帰るよ」
「どんな物が欲しいんだい?」
「子どもたちの遊び道具さ。最近年なのか、子どもに振り回されるようになってきてね。遊び道具でもあれば、と思うんだけど、なんかないかい? ここはそういう変わった魔道具もあるんだろう?」
「そりゃあ、あるけどねぇ。どんなものがいいんだい?」
「そうだね。見ての通り走り回るからぶつかっても怪我しない物が良いね」
「……なるほど」
店員が気だるそうに杖を振ると、彼女の後ろにあった大きな棚の引き出しが勝手に開く。
そうして中から出てきたのは両手で抱えるくらいの大きさの箱だった。
「ぶつかったら怪我しそうじゃないか」
「机の上に置けばいいさね」
「……まあ、そうか。それで? それはどんな魔道具なんだい?」
「これは『クラウドメイカー』っていう魔道具さ。簡単に言えば、触れる雲が作れる魔道具さね。箱に手をついて魔力を流すと、こんな感じでもこもこと雲が出てくるから、好きな大きさで魔力を流すのをやめて、形を整えるといい感じの触れる雲ができる。形も自由自在だから、遊びで使われていた事もあるよ」
「なるほどねぇ。それじゃあそれを貰おうか」
気が強そうな女性はそういうと、巾着袋から代金を取り出した。
店員はそれを受け取ると、クラウドメイカーをそのまま女性に渡そうとしたのだが、横から少年がひったくった。
「早速これで遊ぼうぜ!」
「こら、アンタたち! 勝手に持ってくんじゃないよ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げて行った子どもたちに向かって怒鳴る女性に向けて、店員が「魔道具を使う上で、注意点があるよ」と話しかけた。
「注意点?」
「雲だからね、風に流されやすいのさ。捨てる時は外に捨てれば勝手に流されていくけど、大事に保管したい場合は部屋の中に置いていく事さね。それと――」
「ああ、もういいよ。急いでいるから! アンタたち! 勝手に使って遊ぶんじゃないよ!」
大きな声を上げながら店から出て行く女性を見送った店員は小さな声でぼそりと「まだ伝えた方が良いと言われてる事があるんだけどねぇ」と呟いた。
それから数日後、クラウドメイカーで作った雲に乗って遊んでいた子が風に流されて遠くまで運ばれてしまった、と文句を言いに気の強そうな女性が戻ってきたが「注意を最後まで聞かないのが悪い」と追い出すのだった。
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