魔女と護衛と発火紙
大都会の中、ひっそりと佇む魔道具店の中から一人の女性が出てきた。
とんがり帽子を目深に被り、ローブですっぽりと体を覆い隠しているその女性は、気だるそうに二、三歩足を動かすと、足元に鉄板のようなものを置いた。
直径一メートルほどのそれには魔法陣が刻まれている。
気だるそうな女性がその鉄板に触れ、魔力を流すと魔法陣の中心に向かって風が吹いた。
周囲に散らばっていた落ち葉が風によって運ばれ、風が止む頃にはこんもりと落ち葉の山ができていた。
気だるそうな女性は懐から紐で綴られた紙の束を取り出すと、一枚千切ってすぐに落ち葉の上に置いた。
数秒後、紙が勝手に燃え始め、その火は落ち葉に燃え移る。
落ち葉を集めて燃やすのは最近の日課だったため、巡回兵は気にせず、近隣住民も特に気にも留めない。
ただ、たまたま通りかかった冒険者風の男は違った。
一部始終を見ていたその男は、気だるげな女性に後ろから話しかけた。
「それは魔道具か?」
「どれも魔道具だけど、それってのはどれの事だい?」
「紙の方だ」
「ああ、これかい。これも魔道具さ」
「火種にするのに便利そうだな」
「買うつもりかい? だったら魔道具の説明をさせていただくよ。この魔道具は最初に紙束に魔力を込めるのさ。それで、使いたい時にこういう風に千切るのさ。ただ、火が出るのには条件があって、『魔力を込めた者以外の者が、千切られた紙に触れた時』に燃えるんだよ。分かったかい?」
「なんだってまたそんな面倒な事を」
「作った時はこういう風に使う事を想定してなかったからさ。当時の作成者は『読んだ後に手紙が燃えたらスパイの道具みたいで面白いよね』とか言ってたね」
「よくわからんな」
「まあ、そうだろうねぇ。それで、冒険者さんはこれを買うのかい?」
「ああ」
冒険者風の男は店の中で代金を支払うと、それを懐に入れて店から出ていった。
その後、着火の魔道具として広まるのはまた少し後のお話。
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