魔女と本屋と遮光陣

 物が溢れかえっている店内に、一人の女性がいる。

 気怠げな様子のその女性は、とんがり帽子を被り、古びたローブでさっぱりと体を覆っていた。

 時折ページを捲って読書をしていた彼女だったが、ふとその黄色い目を出入り口に向けた。

 扉が開かれて入ってきたのは、分厚いレンズの眼鏡をかけ、ボサボサの髪の毛を後ろで結ってまとめた女性だった。


「本屋がこんな店に何の用だい?」


 その問いに、本屋と呼ばれた女性が答える事はなく、興味深そうに物が散乱している店内を見回した。


「こんなに物で溢れてるのに、埃一つないのね。魔法で掃除してるの?」

「はぁ……気が向いたらそんな事もするけどね、そこの箱が埃を集めるからする必要がないんだよ」

「へぇ、便利ねぇ」

「本屋であれば、埃は大敵だろう? それを買いに来たのかい?」

「そういうわけじゃないわ。日光を遮る魔道具が欲しいのよ。窓の近くに本を置くわけにはいかないから、て今まで何も置いてなかったけど、手狭になったからね」

「ふーん……確かにあるけどねぇ、アイテムバッグ系の魔道具じゃなくていいのかい? そのくらい買うのは苦じゃないだろう?」

「アイテムバッグとかだとどこかにしまう事になってしまうじゃない。お客さん全員が、求めている本が何かはっきりしてるわけじゃないの。手に取って、中を見て判断したいって言われる度に出すのは面倒だから嫌よ」

「なるほどねぇ」


 魔道具で溢れかえっているこの店に来る客たちも、基本的に「こういう物が欲しい」とは言うが「これを買いに来た」と言う者は少ない。

 気怠げな女性は納得して一つ頷くと、杖を一振りした。

 すると彼女の後ろにあった大きな棚の引き出しが勝手に開き、中から魔法陣が描かれた掌サイズの手のひらサイズの鉄の板が4つ出てきた。魔法陣の中央には魔石をセットする台座がある。


「これは遮光陣っていう名前の魔道具さ。これを部屋の四隅に設置すると、外から入ってくる光を一切遮ってしまうのさ」

「へぇ、便利ねぇ」

「ただ全ての光を遮ってしまうからね、中が真っ暗になるから気をつけるんだよ。明かりの魔道具は必要かい?」

「あるからいらないわ」


 そう言うと、代金を支払った本屋の女性は店を後にした。




 その数ヶ月後、明かりの魔道具の魔石が切れたせいで本屋にいた客と店主の女性が怪我をしたそうだが、気怠げな女性は呆れた様子でため息をつくだけだった。

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