魔女と色男と嫌悪の髪飾り

 ほとんど何もない室内で、ロッキングチェアに揺られながら微睡んでいた女性がいた。椅子の近くには背負い袋の様な物が置かれている。

 ゆらゆらと揺られていたが、女性は閉じていた瞼をゆっくりと開け、近くに置かれていたとんがり帽子を被る。

 それからしばらくして外に通じている扉が開いた。

 室内に入ってきたのは端正な顔立ちをした男だった。


「貴族のお坊ちゃんが、わざわざこんな所に何の用だい?」

「……なんでわかった」

「さぁて、なぜだろうねぇ?」


 チッと舌打ちをした男は身に着けていたヅラを取ると黒い髪が現われる。


「それで? 何をご所望なんだい?」

「人から嫌われるような魔道具はないか?」

「人からかい?」

「ああ。ちょっとこの顔立ちの事もあってモテすぎて面倒なんだ」

「そうかい……まあ、理由はどうでもいいさね」


 そう言うととんがり帽子を被った女性が気だるそうに背負い袋の中に手を突っ込むと、中から髪飾りを取り出した。黄色い小さな花が使われたそれを自身の髪に着ける。

 すると男は眉間に皺を寄せた。


「どうだい? 嫌な感じがするだろう? 本来の使い方は魔物に嫌悪感を抱かせてターゲットを誘導するための物だけど、十分なんじゃないかい?」

「ああ、そうみたいだな。別嬪さんでいい体してるのに、さっきまでの気持ちが嘘のように消えちまった」


 満足した様子の男は金が入った巾着袋を女性の足元に放り投げた。

 女性は髪飾りを取ると男に向かって放り投げる。

 男はそれを受け取ると、足早に店を後にした。

 女性は面倒臭そうに立ち上がると、床に散らばった金貨を拾うのだった。




 後日、黒髪の男が腫れた顔のまま来店した。


「おい、女! 貴様のせいで死にかけたぞ! どうしてくれるんだ!」

「無事、捨てた女からの付きまといは無くなっただろう? 良かったじゃないか。その後、手を出していた女共から袋叩きにされたのは私には関係ない話さ」

「な、なんでお前が知ってるんだ!?」

「そんな事はどうでもいいだろう? それより、いいのかい? こんな所で文句言っていて。ほら、店の前に、お前が隠れて手を出していた女共が待ってんだけどねぇ」


 男が視線を外に向けると、そこには十数人の女たちと、その背後に屈強な冒険者がたくさんいた。

 男は冒険者に引きずられ、店外へと連れ出された。

 それを気だるげな様子で女性は見送るのだった。

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