魔女と冒険者とバイタルチョーカー

 物が整理された店内で、本を読んでいる女性がいた。

 その女性はとんがり帽子を被り、気だるそうに頬杖をついて分厚い書物を読み込んでいる様子だった。

 店内には誰もおらず、静かな時が流れている。

 だが、その静寂も長くは続かなかった。

 店の扉が開くと、ぞろぞろと後ろに人を引き連れた大男が入ってきた。


「おや、Sランク冒険者様がこんな所に何の用だい?」

「何の用っておめぇ、依頼の品が出来上がったって手紙をよこしただろ?」

「ああ、その事かい」


 とんがり帽子を被った女性は、大男と一緒に冒険者たちが入ってきても顔色一つ変えない。

 面倒臭そうに足元に置かれていた背負い袋の様な物の口を開けると中に手を突っ込んだ。


「ああ、あったね。頼まれていた『バイタルチョーカー』だよ」

「これがか? ただの首輪の様な物に見えるんだがなぁ」

「アンタがどう思おうと勝手だけどね、残りの金額を払ってくれないかい?」

「ああ、悪い悪い。この中に入ってっから確認してくれ」


 ドンッと置かれた巾着袋をひっくり返して中から出てきた金貨の枚数を数え始めた女性に、大男は尋ねる。


「それで、どうやって使うんだ?」

「簡単だよ。首に巻いてつけておくだけさ。着用者の微量の魔力を常に使って、脈拍や呼吸、血圧や体温を測り、同期されたこっちの板に情報が伝達されるのさ」

「……まあ、使って見ればわかるか。おい、おめぇらちょっとつけて見ろよ」


 大男が指示をするとテキパキと自分の首に着けている冒険者たち。

 それからしっかりと状況を確認できる事を確認すると、それらを持って店から出て行った。


「……注意点、聞かなくてよかったのかねぇ」


 気だるげな女性のそんな心配をよそに、S級冒険者からの評判を聞いた一部のギルドが購入し、その町の冒険者たちに装着させた。

 そのおかげで冒険途中にはぐれた冒険者がまだ生きているのか死んでいるのか分かるようになり、捜索隊を出す一つの指標になった。

 ただ時々、バイタルチョーカーの反応がなくなり、慌てて捜索隊が編成される頃にひょこっと戻ってくる下級冒険者がいるらしい。

 それを聞いた気だるげな女性は呆れたように呟く。


「そりゃ着用者の魔力がなくなったら反応は消えるだろうよ」

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