魔女と冒険者とヒヤッと枕

 気だるげな女性は、今日もカウンターに頬杖をついて店番をしていた。

 とんがり帽子を被り、体をすっぽりと覆うローブを身に着けた彼女は、杖を時折振っている。

 店内にはたくさんの物が溢れていて、ゆっくりとした動作で女性が杖を振ると、床に落ちていた商品が浮いて元の場所に戻っていく。

 座ったまま整頓をしていたその女性は、ふと動きを止めて出入口を見る。

 しばらくすると扉が開いて、左頬に大きな傷跡が残っている男が入ってきた。


「Aランクの冒険者様が、こんな所に何の用だい?」

「……今度の依頼がなんだかきな臭くてな。危険が分かる物とかないか?」

「そうさねぇ……」


 女性が杖を振ると彼女の後ろに会った大きな棚の引き出しが開き、中から枕が出てきた。どこにでもありそうな普通の枕だ。

 男性は怪訝そうにそれを見た後、女性に視線を戻す。


「これは、『ヒヤッと枕』って名前の魔道具さ。ほら、ここに魔法陣があるだろう? この枕で寝ると、次の日に起こる最悪な事が夢として見る事ができる物さね」

「最悪な事、か」

「そう、最悪な事。最も悪い事を見る事ができたら、その依頼が安全か分かるかもしれないね」

「確かにそうだな」


 そう言うと男性はその枕を買っていった。




 後日、Aランク冒険者である男性がやってきた。

 利き腕を失ってしまったから、冒険者はやめるそうだ。

 彼はヒヤッと枕を気だるげな女性に渡す。


「これはもう俺には必要ない。買い取ってもらえるか?」

「買取はしてないんだけどねぇ。仕方ないか。……夢は見れなかったのかい?」

「いや、しっかり見たよ。仲間と一緒に死ぬ夢をな。それと比べたら右腕一本無くなるくらいどうってことないだろう?」


 購入した時の半分ほどの金貨を左手で受け取ると、男性は店から出て行った。

 その後、気だるげな女性の前にその男性が再び現れる事はなかった。

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