魔女とポーターとついてくる灯り
泥棒にでも入られたのかと思うほど物が乱雑にあふれかえっている店内で、足の踏み場所を作っている女性がいた。
とんがり帽子を目深にかぶり、今日も気だるげな表情――ただ、表情とは裏腹にてきぱきと物を移動させていく。
作業をしばらく続けていたが、ふと作業をやめて入り口の方を見る。
入り口はすでに整頓された後で、ある程度スペースができていた。
そこに、一人の男性が入ってくる。
「ポーターさんが、なんのようだい?」
「ダンジョンに行くから三日分くらいの用意をしてくれ」
「ちょっとそこで待っていておくれ」
そういうと女性は物が溢れている店内を、やっぱり気だるげな様子で移動し、必要な物を集めていく。
「とりあえず、干し肉と飲み水、後は――そういえばアレがあったんだったね」
女性が手を振ると、大きな棚の引き出しが開き、中からカンテラが出てきた。
「カンテラはもうあるからいらんぞ」
「ただのカンテラではないんだよ、これは」
女性がカンテラの取っ手部分をひねると、ふたが取れて、そこに魔石を入れる。
「つきなさい」
女性の一言と共に、灯りがともり、ふわふわと一人でに浮かび上がった。
女性は用意した荷物と共に、男性の方に近寄り、その後ろをふわふわとカンテラが付いてくる。
「どうだい? 名付けて、ついてくるカンテラ。手で持たなくて済むから便利だよ。火も使ってないから消えないか気にしなくてもいい。割ってしまっても火事にもならない。ただ、魔石が必要だけどね。くず魔石一つでだいたい二~三時間持つ」
「便利だな」
「ただ、くず魔石以上の魔石は入れないほうがいい。灯りが眩しくなるからね」
「どのくらい明るくなるんだ?」
「さあねぇ。私は試した事がないから」
「そうか。とりあえず、それも一つ貰おうか」
「毎度あり」
女性は代金を受け取ると、カンテラも含めて商品を渡した。
ポーターが帰った後、女性はまた店内のものを整理し始めた。
数日後、護衛を主に行う冒険者のパーティーが店にやってきて、一人一つ、ついてくるカンテラを買った。
ダンジョンに入らないのに何に使うのか、と女性が聞くと、パーティーのリーダーが答えた。
「盗賊が夜襲してきた時に目くらましで使うのさ」
その後、盗賊と一緒に数人の冒険者も失明したらしく店にやってきたが、女性は「教会に行け」と追い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます