魔女と執事と自動自叙伝

 物が少し整理されている店内に、とんがり帽子をかぶった女性が熱心に一冊の本を読んでいた。普段の気だるげな雰囲気は一切なく、口元が少し綻んでいる。

 人が入ってきても特に反応する事なく、ページをめくる。

 その人が女性に声をかけると、やっと客が来ていた事に気づいたのか、帽子を目深にかぶった。いつもの気だるげな女性だ。


「執事さんが、何の用だい?」

「奥様が、なくならない飴をお求めになられまして……何を読んでいらっしゃったのですか?」

「ある人の自叙伝さ。飴はいくついるんだい?」

「お嬢様の分も合わせて三つほど。その自叙伝は誰が書かれたのですかな?」

「作者は精霊、とでも言っとこうかね。魔法の力で触れた人の歴史を勝手に紡ぐのさ」

「ほう、それはとても便利ですな」


 店内と、店外を一瞥して執事は声をひそめて問いかける。


「その勝手に自叙伝を書いてくれる魔道具は、どこで手に入りますかな?」

「実は、たまたま二冊だけここに」


 女性の後ろの大きな棚の、一番上の引き出しが開いて二冊の本が彼女と執事の間に置かれる。

 執事が触れようとしたその時、女性が止めた。

 女性が指を振ると、勝手に本が開く。中は真っ白だった。


「触れたら勝手に自叙伝ができると言ったろう? 代金を払ってから触りなさいな」

「効果を確かめない事には払えませんな」

「まあ、そうだろうけどね。誓文書を残して払う事を誓うのなら触ろうが何しようが好きにすればいいさ」


 女性が誓文書と呼ばれる契約書を机の引き出しから取り出し、執事長に差し出す。内容を確認した後、なんの迷いもなく執事は名前を書いた。

 彼は魔道具の効果を自身で試し、一冊は直接持って、もう一冊は直接触れないように女性に梱包してもらって持って帰った。




 一週間後、執事が実にいい笑顔で荷物を持ってやってきた。

 不貞行為をしていた性悪女を実家に追い返す事ができた、とお金を差し出したが、女性は受け取らず追い出そうとした。


「すみません、なくならない飴だけでも買わせていただけないでしょうか」


 先週、買わずに帰ったらお嬢様が拗ねたらしい。

 執事は持ってきていたお金を全て渡し、なくならない飴をあるだけ買って、余ったお金でより良い商品を仕入れてほしいと要望を出し、帰っていった。

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