魔女と商人と矢避けの布

 たくさん並べられた商品の埃を、杖の一振りで落としている女性がいる。

 とんがり帽子をかぶり、気だるげそうな表情だが丁寧に、大切に何度も杖を振って――それでも満足いかないのか、はたきを机の引き出しから取り出したところで扉の方に視線を向けた。

 少ししてから客がやってきた。


「商人さんが、こんなところに何の用なんだい?」

「ちょっと護身用の魔道具を探していましてね」

「うちの者を買い付けに行かせたら野営中に盗賊に襲われたらしいんですよ。護衛がいたのに矢に打たれて負傷者が出ましてね。それで、かさばらず矢を防ぐような物がないか探しているところです」


 女性は商人の話を聴き終わると、迷いなく大きな棚に向けて杖を振ると棚の下の方にあった引き出しが開いて、そこから巻かれた布のような物が出てきた。


「そうだねぇ。これなんてどうだい? 矢避けの布、とでも呼ぼうか」

「どういったもので?」

「これの上を通ろうとした物は真下に落ちるのさ」


 そう言いつつ商人を囲むように長い布を円になるように置いて、女性は離れた。

 そして、手近にあった鋏を商人に向けて放り投げる。

 商人はもちろん横に移動して避けようとしたが、鋏が不自然な軌道を描いて布の上に落ちたのを見て動きを止めた。


「勢いが弱かったから、布の上に落ちたんだろう」

「試作品だから、それはお試しでお渡しするわ」


 商人は半信半疑だったが、試してみるか、と持ち帰った。

 その一週間後、他の商人も引き連れて若い男たちがやってきた。


「矢避けの布を売ってくれ!」


 そういう男たちに、女性はやっぱり気だるそうに品物を渡す。


「くれぐれも、体に身につけないようにね」

 

 女性の注意は男たちに聞こえているのか分からない。

 その後、矢避けの布なのだから「体に巻けば避けてくれるだろう」と体に巻いて怪我をした男とその仲間が怒鳴り込んできたが、女性は何も言わずに追い出した。

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