間話

 アイツは……多分……モンスター退治に、それ以外全ての物事に対する関心を持っていかれたんだと思う。恐らく、自分自身のことすらもだ。

 あの時、あの言葉を聞いてやっと分かった。


『──────俺は他の武闘家どもとは違って、内部破壊云々よりもグシャッと握り殺した方が圧倒的に早いからな』


 これを語った時の、あの爛々と輝く翠色の瞳。

 あの狂った瞳が脳に焼き付いて離れない。


 物の考え方があまりにも違いすぎる。

 いや、前々からおかしいなとは思ってたんだ。

 会話してる時も、どこかがズレてるんじゃないかって思う事はあったし、戦ってる時も、なんであんな変な戦い方をするんだろうって疑問に思うことはあったたんだ。

 だけど、こんなにも歪んでいたとは夢にも思わなかった。


 いかにモンスターを早く殺せるか、だと?いかにモンスターを効率的に倒せるか、だと?

 確かにそれらも大事な要素の一つではある。あるが、やっぱり最優先は身の安全じゃねぇのか?

 わざわざ自分から手を塞ぎに行く意味がわからない。

 ヒットアンドアウェイを自ら封じるような戦法をわざわざ取る意味がわからない。


 ポーカーフェイスの練習をしておいてよかった。

 アレがなければ、俺はまるで糞を食ったような顔になっていたはずだ。

 商人どもと舌戦の練習をしておいてよかった。

 アレがなければ、俺はあんな気の利いた事は言えなかったはずだ。


 ……だけど、むしろアイツが歪んでいた事に納得してしまう自分もいた。

 あの格好。教会に居る神父の服を真っ黒に染めたような、あの格好だ。

 あんなのを着ることが出来るなんて、そりゃあ狂ってもいなければ無理なはずだよな。


 ────まぁ、アイツが歪んでしまった原因は大体分かる。

 グリーンスキンどもに村が襲われて、アイツが生き残った。そんなところだろう。まぁよくある話だ。

 そういえば、アイツが初めてここに来た時。アイツは柔らかい布の服に、農家がよくしているような革のグローブ。皮袋を一つ背負っただけの、みすぼらしい格好だった。

 当時はなんだアイツと思っていたが、今思えばそういう事だったんだろう。


 つまり、アイツはモンスターを憎んでいるわけだ。

 しかし、この地上に住んでいる以上、そんな人間は掃いて捨てるほどいる。

 だが、その中でもアイツは力を持っちまった。

 憎しみに駆られた人間が力を持てばどうなるか、それは歴史を少しでも学べば嫌と言うほど理解させられる。俺もそうだ。


 だが、他の連中は誰一人としてアイツの危うさに気付いていない。あのリーネすらも。

 皆が皆、アイツのことをちょっとズレた人間として接している。

 ……いやお姉ちゃんだけは気付いてそうだな。


 とにかく。

 アイツを今正してやれるのは俺だけだ。

 アイツは人並みの幸せってモンを知らなければならない。

 ……うん、とりあえず結婚でもさせるか。

 結婚すりゃあちょっとは変わるだろ。

 さて、じゃあこのダンジョン探索が終わったら、それとなく聞いてみるか……

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