第8話
「っぐおッ…………!!」
「をぁ!!?」
「うっ……………!」
眼に凄まじい痛みが走る。思わず声を漏らしてしまった。
視界が白で塗りつぶされており、周囲の景色が一切見えない。しかし蹲ってのたうち回る程ではないし、これと同じ経験だって何度もある。
我々はあの一撃でボスを討伐し、地上へと帰還したのだ。太陽が天に昇り、すっかりと明るくなった地上に。
そんな所へ暗い地下からいきなり放り出されたものだから、圧倒的な光度差により目をやられた、ということで相違ないはずだ。少なくとも今まではそうだった。
なんとかしたいところだが、こればっかりは対策のしようがない。遮光ゴーグルとかを持って行こうにもボスを倒した瞬間に転移してしまうのでつける暇がないし、だからと言ってクソ暗い地下でそんな物付けてボスと戦うなど馬鹿としか言いようがない。
暗過ぎて何も見えなくなり、普通にやられる。本末転倒も良いところだ。
一応、唯一存在する対策法として「夜の内にボスを倒す」というものがあるが、時間感覚が狂う地下でそれはあまりにも難し過ぎる。
時計だって日時計以外には存在しないので、超正確な体内時計を持っている人間を連れて行くか、倒した時間帯が偶然夜であることを祈る運ゲーくらいしか方法はない。
まぁ、わざわざ夜にボスを倒すメリットなんて目が焼かれないこと以外に無いので、ボス部屋を見つけたら体内時計を持っている人間がいても関係なしに行くのが普通なのだが。
しばらくして目が光に慣れると、景色の輪郭が見えるようになってきた。網膜が焼き切れていないことに安堵を覚えつつ、ぼんやりと見える周囲を見回してみる。
一面の草原に、まばらに生えた木々。少し先には壮大な湖。どうやら今回も無事に帰ってこれたようだ。
「…………ッあー……痛ってぇー……まだチカチカしやがる……が、まぁ問題ない」
「私も、だいぶ見えるようになって来ました」
「よし、それでは、戦利品の分配と行こうか」
ダンジョン攻略一番の旨み、ボスの遺品回収だ。
ダンジョンの殆どはボスの魔力によって構成されているが、ボス自体は実体があるので、ボスが身につけていた物等々はダンジョンを攻略しても残る。
そして、そんなボスは大体の場合魔法的な効果の付与された装備を持っており、冒険者はそれを報酬代わりに獲得できるのだ。というか冒険者は余すことなく獲得する義務がある。盗賊やらゴブリンやらに残り物とはいえ魔法武具や魔法装飾を回収されては堪らないからな。
ちなみに、魔法武具は魔法のかかった装備、魔法装飾は魔法のかかった装飾品を指すぞ。そのまんまだ。
「さーてと、メイジは……お、居た居たってウぅッわ!頭ぶっ飛んでやがる!」
ふむ、流石は俺と言ったところか。相手のグローブを破壊した俺の球威は衰えていないどころか成長しているようだな。
ちなみに野球部はそれが原因になって辞めた。やっぱり俺はバレーとバスケ以外に球技は出来ないんだと再確認させられたぜ。
それはさておき、今回のメイジはパッと見た限り指輪、腕輪が幾つかと首飾り。それとローブに魔法がかかっているらしい。
「ではクルガーン、いつものを頼む」
「あいよ……ッと」
そう、実はこのクルガーンという男、鑑定の技能が使えるのだ。なんでもリーネが魔法学校に通っていた間に、色々なところで様々な技能の資格を取っていたらしい。理由はリーネと二人で冒険者をやるためだとかなんとか。とっととくっ付いてしまえリア充が。
まぁ、それはそうと重宝はする。なんてったって鑑定屋に持ち込む必要が無いからな。
「えーっと、だな。指輪が上から炎耐性、常時治癒、炎魔法威力上昇、魔力収集、耐寒で、腕輪が闇魔法威力上昇、静寂、防御力上昇。首飾りが自動回避。ローブは単純に耐久性だな。俺は防御力上昇と常時治癒が欲しいんだが、いいか?」
「じゃあ、私は炎魔法のやつと自動回避で」
っと、もう鑑定終わったのか。相変わらず早いな。
しかし、なかなかのラインナップだ。こん中で欲しい物となるとーーーー
「ぬう、俺も常時治癒が欲しいんだが」
「うーむ……アレ?お前、前の攻略でも常時治癒持ってってなかったか?」
「いや、割とレッドスキン連戦とかになるとアレだけじゃあキツくてな。出来ればもう一個欲しい」
「あー……まぁ、お前ソロだもんな……ま、いいだろ。俺らはもう回復手段あるし」
よしよしよし、有り難い有り難い。常時治癒は俺らのような超近接戦闘職を生業とする者にとっては生命線みたいなところあるからな。
これを一個つけているだけで回復力が段違いになる。目が潰れたり四肢が欠損したりしても回復ができるのだ。まぁ、その場合は治るのに一、二ヶ月程度かかるのだが。
しかし、それでも永遠に回復しないと回復するとでは違いすぎる。それが増えるのだ。効果は凄まじいものになるだろう。
あ、複数個付けて何か副作用が起こる、なんてことはないぞ。単純に効果が倍になる。
っと、そうだそうだ。今のうちにーーーー
「なぁ、クルガーン。せっかくだから俺のコレも鑑定してくれ」
今まで魔法武具なんて思いもしなかったからな。
まぁ、今まで使ってみた感じ、耐久性とかその辺だとは思うが……
「ん?おお、いいぞ。えーっと……あ?あぁ……?スマン、俺じゃあよくわからん。もっと腕の良いヤツに見てもらってくれ」
「ほう?……そうか、まぁ伝手はある。そこを頼ろう」
ってなると帰省することになるのか……じゃあアレだ。今度昇格試験のついでに寄って行くことにするか。
流石に手ぶらはアレだよな……土産は何が良いか…………そういやガキどもに有名人の手形貰ってきて欲しいって言われてたな。
宝石等級の誰かと運よく遭遇できたら頼むことにしよう。色紙買っとかないとな。
「さて、んじゃあ戻るか。残りはレクスの方で売るってことでいいよな?」
「構わん。……ところで、帰りもボートか?」
「おう、当然だろ?」
「…………まぁ、そうだな」
うむ、出来るのならもう二度と乗りたくないのだが、まぁ仕方あるまい。
それに万が一落ちてもなんとかなる……筈だ。
いやきっと、多分、恐らく、メイビー。
□
…………ふぅ、ちょっと清々しいのが腹立つな、本当に。
まぁ、無事に湖を渡り切ることはできた。……なんか無事と言うのも腹が立ってくるな。なんでアレで俺達は無事でいられているのだろうか。
感覚的にはアレだ。あのー……水上バイクの後ろに付いてるアレ。アレを飛行機でやってる感じ。
ちょっと何を言ってるか分かんないと思うがまぁ、むしろ分からない方が良いまである。多分SANチェックが入る。
で、そんなことがあって今はレクスへ帰る道の途中だ。
帰りは何の依頼も無いので、ゆったりと帰れているーーーーいや、行きが異常なだけだったのだが……
とにかく今の俺達は、周りの景色にも少しは気を遣えるって程度には余裕を持てている。
レクスとテイアムの間に広がるのは一面の森と、たまに村々。
それを見ていると、なんと言うかこう……心が休まるのを感じる。平和って素晴らしい。
「……なぁおい、ラガン」
「ん?なんだ?」
「お前さぁ、結婚とかどうするつもりなんだ?」
うむ、平和が一瞬にして弾け飛んだな。
しかし、結婚……結婚か……前世では女っ気など何一つ無かったからな……できれば今世では結婚したいんだが……
「そう言うお前はどうなんだ。俺と歳は近いだろう」
「ソレ言うんじゃねぇよマジでよぉ……俺もそろそろ誰かとくっ付きたくて声かけてるんだけどさぁ?なんか皆俺のこと避けてるっていうか……相手にされてないっていうか……」
そりゃあお前、そりゃあそうだろうがお前。
お前いるだろうがよリーネがよ。
「そういえばそうだね。クルが声かけてもなんか、なんていうか……気まずそうにどっか行っちゃうっていうか」
「そうだよなぁ!」
だからそりゃあそうだろうがよぉ!!!お前らがどうしようもなくお似合いだからに決まってんだろうが!!
気付け!さっさと気付きやがれ!互いにクソボケ晒してるんじゃあないぞォッ!!
「なぁ〜教えてくれよぉラガン〜……俺もいい加減結婚したいんだよぉ〜」
「あの、私からもお願いしていいですか?いつもいつも振られてるのが可哀想で……」
「えぇい!知らん!俺は知らんぞ!……ちょっ、おい!やめろ!縋るな!縋り付くな!離れっ、離れろォッ!!!」
誰が教えられるかァ!気まずいわ!気まずすぎるわ!
勝手に気付いて勝手にくっ付きやがれクソボケどもが!俺は逃げる!逃げるぞォッ!
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