第6話

「はい、着きました」


 うむ、久々に死の危険を感じた。

 安全に渡れるとは何だったのかと小一時間ほど問い詰めたい気分だ。

 だが胸の中には謎の達成感もある。なんなのだろうか。これが絶叫マシンに乗った人間の気持ちなのだろうか。

 前世では遊園地に行ったことなど一切ないのでよくわからんが。


「さて、ダンジョンは……アレか」

「アレだな」


 ダンジョンの入り口は普通に分かり易い。

 周りの地面が草だろうが砂だろうが、同じ材質の土でもりっと地上に置いてあるのだ。

 湖周りの地面は草。しかも木だってあまり多くない。軽く辺りを見渡せばそれだけで一発だ。

 この見つけ易さも早期発見の一助になったのだろう。


「見つかったなら早速行くぞ。今日は誰かのせいで満足に準備ができていないのだ。最短で終わらせなければ色々とボロが出てくる可能性も十分ある」

「え“」


 いや、「え”」じゃないが?「え“」じゃないんだが?

 説教してやろうか?折檻でもいいぞ?本日2度目のアイアンクローいってやろうかこのクソガキめが。

 お前が後先考えずにさっさと出発しちまったもんだから、超急ピッチで最低限だけ準備してこっちに来たんだ。

 一応忘れ物はないはずだが、あったらお前の所為だからな?


「とりあえず行くぞ。さっさとな、さっさと。敵は瞬殺、マッピングは最低限だ」

「お、おう」

「わかりました」


 二人を急かしながらダンジョンの中に侵入する。

 階段を降りていったその先で俺達を歓迎してくれたのは、武装した骸骨の集団。コイツらこそがスケルトンと呼ばれる骨のモンスターだ。

 スケルトンにはその個体によってグレードが存在しており、グレードが高いほど強いとされている。

 グレードは武装の質で確認ができるのだが、このスケルトンどもは最底辺に分類されるスケルトンであるらしい。

 まぁ、序盤でそんなに高位のスケルトンが出て来られたら困るんだが。


 基本的に、スケルトンは簡単に倒すことができるモンスターだ。ボスからの魔力供給を切らなければ消滅こそしないが、何処でもいいので一箇所破壊してやるだけでバランスを保てずに崩れ落ち、粉々に砕けて勝手に無力化されてくれる。

 まぁ、グレードが上がってくるとそうもいかなくなってくるのだが、この集団ならば全く問題はない。

 そんなわけで、とりあえず先陣を切ってきたスケルトンの髑髏をある程度の背骨ごとバキッと拝借し、ソフトボールの要領で残りのスケルトンどもに投擲する。

 これだけでスケルトンどもの3分の1は再起不能に陥った。

 後はもう適当に千切っては投げ千切っては投げを繰り返せば終わり。ここまで大体7秒台前半といったところ。瞬殺だ。

 

「まだ一本道だ。マッピングは要らんな?」

「はい、大丈夫です」


 こういう短縮出来るところは短縮して行かなければ、時間がかかりすぎてしまう。

 安全性を考えればしっかりとやっておくに越したことはないが、今回に限ってはそうもいかない。マジで持ってこれたのは最低限だけなのだ。時間がかかり過ぎれば余裕で飢える。

 だが一応マッピングに関してはやっておかなければ普通に迷って死ぬ上に、そうなった場合は誰も失敗に気付かずに迷宮が爆発するので、最低限はやるという形を取る。


「分かれ道だな……クルガーン」

「よっし、任せろ」


 クルガーンが背負った剣を抜刀する。

 慣れた手つきで剣の切っ先を床へ押しつけると、剣に無駄な力が加わらないよう、パッと手を離した。

 支えを失った剣は物理法則に従い、カランカランと甲高い金属音を鳴り響かせながら床に倒れ伏す。

 静止した剣の切っ先は右方向の通路を指し示していた。


「よし、右だな。……マッピングはどうだ」

「はい、出来ました」

「では行くぞ」

 

 うむ、やはり分かれ道は正攻法に限る。

 ふざけた方法に見えるかもしれないが、実際法則性も何も存在せず直感頼りで行くしかないので、マジでこれが一番正しい判断の方法だったりする。

 宝石等級のパーティであっても分かれ道の判断はこれだと聞いた。

 さて、後はこの道が当たりだと信じて進むだけか。罠とモンスターにも気をつけなければな。


 


 □



 

 あれから順調にダンジョンを進み、現在三階層を探索中の我々だったが、そんな我々の行く道を塞ぐように巨大な猫のような怪物が姿を現した。


「ほう、キャスパリーグか。そうなると最奥にいるのはメイジだな」


 ダンジョンに出現するモンスターは、例外なく全てダンジョンの最奥に存在するボスの手によって生み出されたものだ。

 そしてそんなモンスターの中には、どのダンジョンでも出現するスケルトンやゴーレムの他に、『その種族のボスでしか生み出せないモンスター』というものが存在する。そのため、そのモンスターを確認できれば、ボスが何であるか限定することができるのだ。

 例えば、グールならばヴァンパイア。ゴーストならばレイスなど。

 その内の一つがキャスパリーグだ。キャスパリーグが出てきた場合は、最奥にいるボスがメイジに限定される。

 

「シャァァァァァッッ!!!」

 

 キャスパリーグは狭い通路を真っ直ぐにこちらへと向かってくる。実に分かりやすい。

 

「クルガーン」

「あいよッ!」


 クルガーンがその鎧でキャスパリーグの前腕を受け止めた。

 そして、そのままキャスパリーグの腕を掴み、全身を躍動させるようにして全力で後方へ引っ張り上げる。キャスパリーグはその巨体故に動じることはなかったが、逆にそのせいで前腕は伸び切るところまで伸び切ってしまい、キャスパリーグは前腕一本を封じられることになった。

 4足歩行であるキャスパリーグにとって、それは致命的だ。体幹こそそこまでブレていないものの、ここから下手に動いてしまえば、転ぶことは必至である。

 無論、この状況でそんなこと許されるわけもない。キャスパリーグは脚を引っ込めようとする。

 しかし、重戦士であるクルガーンの膂力と重量がそれを許さない。クルガーンは素早く体を翻し、綱引きの要領で腕を保持する。腕を取り戻さねば何もできないキャスパリーグは、クルガーンとの綱引きを受けるしかない。

 キャスパリーグは残る3本の足から出した爪を石畳の隙に突き立て、引っ張り上げようとする。

 しかし、その前に俺が素早く背中へと飛び乗り、頸椎を両手で掴んで握り潰した。

 これで無力化は完了だ。程なくすれば勝手に死ぬだろう。


「相変わらずエグいよなぁ……それ。いや、楽だし有難いが」

「フン、エグさで言えば頭蓋をカチ割るのも火達磨にするのも、そう変わりは無いだろう」

「まぁ、そう言われれば否定は出来ないんですけどね」


 隣の芝は青いってのと似たような感じだろう。自分が出来る必殺よりも、他人の出来る必殺の方が凄惨に見える。

 側から見たら、どちらもエグいことに変わりはないというのにな。

 まぁ、だがその嫉妬?羨望?も自身の向上に一役を買うものだからな。大事にしなければ。


「そんなことより、今は三階層だろう?そろそろ最奥も近いぞ。気を引き締めて行け」

「わかってるわかってる。だがなぁ、もう慣れすぎちまっててなぁ」

「まぁまぁ、程よい緊張感を持つことは大事だから……」

「ん〜……まぁ、そうなんだがなぁ……でm」

「よし行くぞ早く行くぞ黙って行くぞ」


 危なかった。もう少しでイチャつき始めるところだった。

 ここでイチャつかれたら逃げようが無いから実に面倒臭いことになる。

 今までもコイツらのせいで時間を使い過ぎてしまったことが何度あったことか……

 今回は食料もあんまり持ってきていないんだ。

 くっ……さっさとボスを倒して帰還しなければ……


 

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