第5話

朝だ。今日も一日が始まったな。

 というわけでいつも通り依頼書の掲示板の前に立ち、今日受ける依頼を探す。指名依頼の有無は既に確認済みだ。

 うむ、やはり面倒な依頼しか残っていない。まぁ俺が掲示板を見るのはいつも新人達の後だから当然なのだが。

 だが、これも上位等級者の務め。俺も新人時代は優先して楽な依頼をやらせてもらっていたのだ。今度は俺が新人達を優先してやらねばならないだろう。


 ……ああ、今更だが等級の説明をしておくか。

 等級というのはまぁ、簡単に言えばその冒険者の『信頼度』を表すものだ。

 等級が高いほど経験と功績が豊富で、依頼をより確実に遂行できる、と言った具合だな。

 で、そんな等級だが、今現在は下位等級の十級から一級までの10段階と、上位等級の水晶、鉄鋼、銅、銀、金、宝石の6段階で、合計16段階が存在しており、昇級については、一定の功績を貯めることで受けられる昇格試験に合格すれば可能だ。


 ちなみに、新人というのは下位等級の冒険者のことを言う。

 下位等級は割と爆速で等級を上げられるからな。早い奴は1年も経たず水晶まで上がる。

 参考までに言うと俺は2年くらいかかった。まぁソロの武闘家なんてこんなモンだ。


「あの、ラガンさん」


 む、この声はリーネ……ああ、そういえばダンジョンに行くって話してたな。

 確かテイアムの湖のところだったか。

 

「随分早かったな。まだあれから三日だぞ?」

「いえ、ちょうどテイアムまでの護送依頼が入っていまして。都合が良いって事で、クルが。なにしろダンジョンですから」

「否定はしない。ところで、爆発はまだ大丈夫そうか?」

「まだまだ先みたいです。今回は発見が早かったらしくて」


 ダンジョンは割と面倒くさい。

 というのも、ダンジョンは地上に存在する入り口から地下に広がる広大な迷宮であり、道中にはモンスターがいるし、最奥にはボスもいる。

 勿論罠だってあるぞ。天井が迫ってきたりな。

 そんなだから割と攻略には時間がかかってしまうわけだ。最速で行っても半日くらいかかる。

 だからできればやりたくないんだが、早く攻略しないと内部からモンスターが大量に湧き出て来て、かなりの大惨事になる。

 一個爆発するだけで国が騎士団を動かして、冒険者にも招集令が出るレベルだ。

 一回だけ経験したこともあるが、マジでやばい。コミケよりやばい。蝗害ってあるだろう。アレがゴーレムやらスケルトンやらゾンビやらで構成されていると考えてくれ。

 だから俺達が早めに対処しなければいけないんだが……まぁ、面倒くさいものは面倒くさい。

 

 ただ、この迷宮は最奥のボスを倒せばボスが身につけていたものが貰えるので、旨味はある。品質はピンキリだが。

 それに、ゲームよろしくボスを倒せば即座に入り口に戻ることができる上に、ダンジョンが丸ごと消滅する。

 なんでも学者ども曰く、「魔法によって世界そのものに迷宮を投影している」とのことだが、まぁ原理はよく分からん。

 とにかくダンジョンはミノタウロスどもとは違い、後始末の必要が無いのだ。うむ、実に素晴らしい。ぜひ連中にもこの立つ鳥跡を濁さずの精神を見習っていただきたいものだ。


「さて、では行くか。護衛する馬車は?」

「もうクルが付いて出発しています。追いかけますので担いで貰って構いませんか?」

「アイツ…………まぁ、了解した。さっさと行くぞ」


 まぁ確かに時間効率はいいがな…………はぁ、仕方ない。

 しかと見るがいい、俺の圧倒的走力を!

 女一人抱えた程度で、馬車なんぞに遅れは取らん!!



 

 □




 ……ふぅ、最初はどうなることかと思ったが、無事にテイアムまで着くことが出来た。

 テイアムは商業で発展した町で、ここにはなんと魔法学校も一つ置いてある。

 俺が拠点として活動しているレクスのギルドにいる魔術士達も、その殆どがここの出だ。


「……う、ぶ、うう……まだ痛ぇ……」

「まぁ、これはクルが悪いと思う」


 クルガーンが何やら頭を押さえて苦しんでいる。一体どうしてしまったというのだろうか。

 馬車に追いついた時に俺が少しだけ撫でてやったのだが、それが何か関係あるのか?


「この辺りで結構です。では、こちら依頼の達成証になります」

「はい、有難うございます。確かに受け取りました。それでは今後とも宜しくお願いします」


 こう言った護送だったりの依頼では、依頼主が達成を証明する達成証を冒険者に渡すことになっている。

 たまに依頼を達成したのに達成証を渡そうとしない奴もいたりするのだが、冒険者がそれを告発した際にはギルドがしっかりと調査を行う上に、報酬金はもうあらかじめ払ってあるので、そんなことをする意味は殆ど無い。むしろ損と言ってもいいだろう。


「依頼は達成したな。さ、ダンジョンへ行くぞ」

「おう、ダンジョンは湖の向こう側だ。ボートで行くぞ」

「ほう?良いのか?」


 この世界、ボートに限らず水上を移動すると、ほぼ確実にモンスターに襲われてしまうので、基本的に水上は移動しないし出来ない。

 これが理由でこの世界では漁業が殆ど発展していない。精々が陸からの釣りだ。

 俺も一度だけ大きめの木の板を湖に蹴り飛ばして試してみたところ、1分足らずでマーマンどもにに群がられ、木の板は見事ただの木片と成り果てた。流石に恐怖を覚えたことを覚えている。

 一応、ボートを使って安全に移動する方法も無くはないので、船やボート自体はあるのだが、滅多にできるものではない。

 何せ『付与職がボートに色々と属性を付与する』だったり『金に物を言わせて聖水を常に撒き続ける』だったりと、できる人間が圧倒的に限られているからだ。


「ああ、問題はない。リーネは風魔法も使えるからな。安全に水上を行けるんだ」

「まぁ、普通は空気抵抗が凄すぎる上に、船のバランスがすごく不安定になるので無理なんですけどね?私の得意属性が風っていうのと、クルが重戦士だから出来てるってだけで」


 そうだったのか。そんなこと初めて知ったな。

 だが、コイツらが大丈夫と言うのであれば大丈夫だろう。一応はコイツらも金等級だからな。

 

「じゃ、早速湖に行くぞ。ボートは自前のがそこに置いてある」

「了解した」


 テイアムの湖は、テイアムの町を出て2分か3分程度歩いた所にある。

 普通に滅茶苦茶大きく、少なくとも日光の中禅寺湖よりは大きい。直接見たことは無いが、琵琶湖並みなのではないだろうか。

 また、伝説ではドラゴンがこの下に眠っているだったり、神殿が沈んでいるだったりと言う物があるが、前述した通りモンスターが大量にいるので、調査はできていない。

 ただ、ドラゴンに関しては鱗が岸に流れ着いていたこともあるため、恐らく事実であると考えられている。

 ちなみに鱗は町役場に置いてあるので、いつでも見ることができるぞ。


「よし、着いた。悪いがラガン、これを水に浮かべてくれないか?」

「構わん。このくらいはな……む?」

「ひャァッ!?」


 ボートをひっくり返すとかなりの数の虫が湧き出てきて、リーネが悲鳴を上げる。

 どの世界でも女は虫が苦手であるらしい。念のためにと魔法で炎を出し、ボートに近づけている。

 まぁ虫が居ない事に越した事は無いので、このくらいが丁度いいのかもしれない。


「……うん、もう大丈夫。……クル」

「ん」


 クルガーンが船に乗り込み、船の両縁を掴んで体を固定した。

 これを風除けにするらしい。俺も船に乗り込み、縁をしっかり掴んでおく。

 

「では、行きますよ」


 リーネが詠唱を開始する。

 すると、間も無く船がとんでもないスピードで走行し始めた。

 これは凄まじい。確かにこれなら安全……本当に安全か?

 

「あっ」


 おい!?

 これは大丈夫なのか!?大丈夫なんだよな!!?そうだよな!!?

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