第13話 嫌なやつと嫌なやつ
「へぇ」
舞奈は少し感心した。ケダモノにも知性はあるが、そうなることは滅多にない。舞奈の予測を超えてくる個体なんてまずいないからだが、たまには遭遇する――それが不快だという人間は少なくない。世界が自分の想定したものだけに成り下がることを、何よりも尊ぶ劣等種だ。
そういう輩と違って、舞奈はそういう事態が好きだ。当たり前の話だ。驚きと感心が生まれない世界で生きていて、何が楽しいのか――と思うのだが、劣等種どもは馬鹿にすらなれない愚か者の集まりだから、波風の立たない、不変の世の中を求めている。
ゴーズの仕事だって、結局のところ目的はそれである。ケダモノによって世界が変わることを恐れて、だから速やかに殺させているのだ――どいつもこいつも、いつか必ず殺してやる。だが今は目の前のケダモノを殺さないといけない。兄の意思を尊重するために。
ケダモノは光弾を防ぐような、盾を持っていた。甲虫型がそんなものを用意したという前例はないから、ケダモノは変化と進化をしている――翻って、人間はどうだ? なんて思っていれば戦場では死んでしまう。切り替えて、舞奈は銃口をケダモノに向けた。
数は四。いずれも盾で身を隠している。甲虫型でなければ、盾を持つケダモノは存在していた。それこそ、兄が戦闘したという資料を見たことがあるくらいだ。
引き金を引く。
ケダモノたちは盾を構えて――公団が弾かれる。
「なんですって?」
そう言うとケダモノがにやりと笑ったように見えたが。
嘲笑する。
「なんて言うわけないでしょう!」
左手に持った銃を上空に放り、その間に空いた手で腰から一本の棒を取り出す。見た目はただの棒だから、ケダモノたちにもこの動きは不可解に映っただろう――その間に反撃をすればいいものを、残した銃を警戒して動かない。
馬鹿だ。舞奈は笑う。四体という数の差を利用すればいいだけなのに、なまじ知性があるから二の足を踏むのだ。思考は大切だが、使い方を間違えれば自分を殺すだけだと気づきもしない。
命の持つあらゆるものがそうであるように、人間やケダモノの持つ知性や理性なんてものは、ひとつでもミスをすればそのまま自死を呼び込む危険をはらんでいる――と、それらで理解しているから、馬鹿は判断を誤る。馬鹿以下の出来損ないは、そもそも何もしなければいいと思い込む。
どちらも等しく、価値がない。
思考をしながら、一切のミスをせずに決断をする。
たったそれだけのことができればいいのに、その程度のことにすら気づけない――そういう意味では人間とケダモノにあまり差はない。
落下してきた銃が棒に吸い込まれるように連結する。その反対に右手の銃を繋げて。
二丁の銃が、一丁のライフルに変化した――そこでやっと、ケダモノたちは失策を悟ったらしかった。盾を手にして突っ込んでくる。が。
舞奈がライフルから光弾を放つ方が、断じて早かった。
二丁の銃の威力を重ねた――なんて文言を嘲るような威力を持った巨大な光弾が、三体のケダモノを盾ごと、塵ひとつ残さずに消し去った。
通常の光弾の威力よりも、数字で表せば二乗分、強力になっている。間宮が自慢げにそんなことを語っていたが、反動だとか燃費が悪いからあまり使うなとも言っていた。後者はともかく、前者は舞奈が耐えられるから問題はない。あの爺は、あたしを舐めてるのよね。このケダモノのように。敵を見据えて、舞奈は声にせずつぶやいた。
「舞奈君! 連結モードはやめろとあれほど――」
その爺からの通信が入るが、聞く気はない。兄の頃はシステムの構築が間に合わず、こうして余分な声を投げられなかったそうだが、今はリアルタイムで監視されている。不快だがシステムは切れないので、無視するしかない。
「さて、残りはあんただけよ? 遺言あるなら聞いてあげる――言おうが言うまいが、殺すんだってことはわかってるでしょ?」
「ゴーズ、貴様は何をしている――システムに従え!」
「人間の言葉を使わないでよ、ケダモノなんだから!」
間宮の制止する声は聞こえていたが。
きっぱりと無視して、舞奈はライフルから再び、光弾を撃った――それが着弾する、ほんのわずか前に。
「貴様と我らは等しいのだぞ!」
そんな声が、聞こえて。
ケダモノが消え去った。告げる。
「一緒にしないでよ。あたしはあんたたちみたいな、馬鹿じゃないのよ――馬鹿にすらなれないやつは、黙りなさい」
後半は間宮に対して言っていた。それに気づいたかどうか、爺はわめく。
「私の承認もなしに兵器を使うではない! 君は忘れていないかね? ゴーズを作ったのは私だぞ――君が力を振るえるのは、ひとえに私がいるからなのだぞ!」
「あっそ」
それは事実だが、同時に、ゴーズが意味ある存在として機能しているのは舞奈という適合者がいるからでしかなく、だから立場は対等のはずである。
間宮はつまるところ、支配できる相手が欲しいだけだ。それは誰しもが持つ欲望かもしれないが――兄に言わせれば、他人を支配したいという欲を持たないのは、神か仏か、超人か。その三つであり、人間ではそれを捨てられないそうだ。
舞奈は超人だから、たかが凡人をどうこうしたい、とは思わないが、間宮は口では天才だと名乗るが凡人なので、どうしたってその欲望から逃げられない。
「帰投したら私の所に顔を出せ! いいな!?」
「従う理由、ある?」
「私は上司だ!」
「そういう言い方しかできないから、あんたは無能なのよ」
間宮が怒声を上げたが、犬の鳴く声よりも価値がない――ケダモノの声の方がまだいくらか価値があるかもしれない。
「あんたたちと、あたしが等しい?」
間宮の声には応えず、続ける。
「あたしと等しい存在なんていないのよ。あたしは最高にして最強のゴーズ――超人。あいつらも、たったそれだけのことがわからないようで……」
「君は私以下だぞ!」
「もしそうなら、あんたはとっくに死んでるってこと、わからない?」
ゴーズがどれだけ優れた兵器でも、使える人間がいなければ宝の持ち腐れだ。舞奈がその義務を放棄すれば、人間という種は何もできずにケダモノに駆逐されて終わる――実際、ヨーロッパのいくつかの国は一部の都市を捨てたと聞いている。
ケダモノを倒すことのできるゴーズの適合者は、百億に迫る人口の中でも、十人といない。その数で世界と人間すべてを守るなんてできるはずがない――その十人がのすべてが舞奈のような超人であればいいが、そんな都合のいい話は転がっていなかった。
「ふざけるな! 私は君よりも遥かに価値のある命だ! 君などいなくても、私は生き続ける――生かさないではおけないと考える者が、いくらでもいるぞ!」
「それだけ、あんたの利用価値はあるわけよね。でも、替えが利かないってほんとに思ってるなら、あんたは本当に馬鹿よ」
「口が減らんガキが!」
「そうやって議論から逃げるなら、あなたは年を取っただけで老人になってない――まさにガキよ、わかる?」
「どうして君が適合者なんだ!」
罵声のつもりだろうが、馬鹿以下の劣等種の声で傷つくことはない――哀れみを込めて、告げる。
「あんたが無能だからでしょう」
そして、舞奈はゴーズの装備を解いた。同時に間宮との回線も切れて、解放される――ガキの声を延々と聞かされるのは、面白くない、を通り越して不快ですらあった。それでも少し聞いてやったのは、兄なら付き合いで聞くだろうと思ったからだ。
兄がそんな対応をしたせいで、間宮は自分の声を、誰しもがかしこまって聞く声だと錯覚したわけではあるが。その意味では悪いのは兄だ。人間、自分の言葉を一方的に聞いてくれる、いわゆるサンドバッグがいると、どうしても堕落して無意味な言葉を垂れ流す人以下の害獣に成り下がる。
あるいは。と舞奈は思う。間宮はかつては天才で、超人だったかもしれない。だが、超人でいる努力を怠って、人間以下になった。情ないが、だからこそ凡人ですらなれなかったと言える。常に高みを目指せる精神がなければ、人間でいることすらできずに堕落していく……それが劣等種の証明である。
ケダモノが出たのは、昼下がりの貧困街の外れだった。富裕層の街に出ないのは、きっと、ケダモノの標的が人間以下の存在――劣等種だけだからだ。富裕層の人間が本当に人間なのだかは舞奈にはわからないが、およそ、貧困層の人間は姿かたちが同じだけで人間だとは思えない。
と。
AIと接続されたイヤフォン型のスマホに連絡が入る――間宮だ。
「今日という今日は、君と決着をつけるぞ舞奈君」
「……なんであんたを警察に突き出せないのかしら?」
「我々は警察機構の人間だからですね。警察は身内を疑わないものです」
AIが言ってくる。ゴーズを装備している時は黙っているが、解除すれば発言くらいする。
「そもそも、だ。君は年上を敬う気持ちがなさすぎるぞ!」
「これからバイクの運転なの。黙って」
「こちらで制御しますから、好きなだけ話していいですよ」
「このポンコツ、ほんとにAIなの?」
「私の最高傑作のひとつだ」
「だから出来悪いのね、わかった」
嘆息する。バイクのお供に間宮のくだらない声など冗談にもならないが、施設に帰投する前にAIを切ることはできない。そんなことすれば減給で、それは子供たちの食い扶持を確保できなくなる、ということだ。
「あんたさ」
バイクにまたがり、忌々しいことにオートで走り出した車体の上で。
舞奈はつぶやく。
「子供、いるの?」
「いないが? いるのか、あんな足を引っ張るだけのもの」
「でしょうね」
子供を持てれば上等な人間だと、そんなことを言う気まったくない。だがそれでも、子供をまっとうに育てられるのは、まっとうな人間だけに許された行為である――そうでない人間面した劣等種ばかりが世にのさばるから、悲劇は根絶されないのが。
ある種の感嘆を込めて、告げる。
「そこだけは、あんたの評価できる――悲劇の連鎖を止めてるんだから」
出来損ないの人間に限って、子供を愛しているなどという妄言を口にする。そして、自分が愛していると認識できれば、子供がどう思っているかなど関係ない。
もし虐待の末に殺しても、それが愛だと言い切れる屑ばかりが親になる。
そして仮に生き延びても、まっとうではないのだから、愚かにも悲劇の連鎖を生み出す――子供を作って、不幸にして、それが愛だと叫ぶ。
愛してやったのだから、何をしても子供は受け入れるべきだ、と。
愛してやったのだから、たとえ人生を崩壊させるような傷を作ったとしても、それを許して親に尽くすのが子供のあるべき姿なのだと、司法の力を背景に強いる――舞奈の知る限りの親というものは、階層に関わらず、そんなものだった。
「……君は」
間宮が少し、落ち着いた声を出す。
「私が愚かだと思っているのかね?」
「どうかしら。この世界に人間なんていないとは思ってるけどね――どいつもこいつも人間面した劣等種で、この星のリソースを無駄遣いしてるだけのゴミしかいないって思ってるのよ、違う?」
「だが……君はそんなものを守らなければ生きていけない。そしてそのチャンスを恵んでやったのが私だ――君は私に感謝するべきだな?」
「誰かに感謝されないと何かを成せないなら、それも劣等種と呼ぶに相応しいんじゃない ――それとも、何? あんたに感謝して、あんたの使い物にならないものをしゃぶれとでも言うの?」
「私はまだ現役だ!」
「だから? どんなことを言っても、使われないなら――子供を作れない男なら、あんたのやりたいことはつまり、快楽を享受するだけの行為。それを求めるなんて、動物以下の愚劣な品性よ」
間宮も。
貧困層の出身だ。だから無精子になる手術を受けているから、当然だが子供はいないし、彼は頭がいいから養子も取っていない――結婚をしていない。そして、いくらゴーズを生み出してアップデートしても適合者にもなれず、その欲望は行き場を失って燻っている。
つまり、欲求不満なだけの爺だ。その捌け口として、若者を利用しようという――そういう痛々しい欲望を抑えることさえできていない。
「君は……まったく、風切君のようであればいいものを」
「兄さんは善人だもの。利用しやすかったでしょう?」
「ああ。あれはいいやつだった――今でもいいやつだと言える」
「兄さんより善人って、そんなのいるわけないもんね」
「……そうだな」
観衆に浸るような、間宮の声だった。この爺は爺なりに、兄のことを思っているのだろう。優秀なサンドバッグだった、とでもいうように。間宮は兄を人間だと認識したことは一度だってないだろう――道具か人形か、そんなところだ。
「で? 話は終わり? あたし、話しながら運転するの嫌なんだけど」
「まるでご自分で運転しているかの言い様ですね」
「アイハブコントロール、オッケー?」
「ノーです」
「君は運転が荒いんだ。整備する私らの身にもなれ」
「あんたは指示するだけで、実務はやらないじゃない――それとも、夜通しで整備とかするのかしら? お偉い開発者さん」
「嫌味かね?」
「まさか。純度百パーセントの称賛よ」
という舞奈の言葉をそのまま受け取るならば、間宮は今すぐにだって殺していいのだが――その程度の価値しかない、と断じてもいいのだが。
「いいだろう。部下の残業代を弾んでやる」
そんなことを言うのだから、殺すこともできない。無論、嘘だとわかっている。上申などという愚策を選べるような立場ではない。ゴーズの開発者といっても、一度でも生まれた技術はその手をすり抜けて、発展していくものである。
開発が終わってしまえば、アップデートに間宮は不要だと言い切ってもいい。防人機構が彼を生かしているのは、貧困層でも優秀であれば富裕層のような生活ができると錯覚させるためだ――貧困層に生まれた時点で、逆転などあってはならないという本音を隠すためにそういうフリをするくらいの知性は、彼らにだってある。
無論、貧困層には馬鹿しかいないわけではないから、富裕層のその意図を理解している人間もいるし、舞奈のような超人だっているし、兄みたい善人だっていた。だがそれでも、馬鹿には幻を見せておけばいい、と断じる連中がいるものである。
いわば、間宮は道化でしかない。
もう不要になったのに、必要だとおだてられて踊る道化――道化自身が自分を不要だと思いながらも、稀代の道化だと信じ切っているあたりは悲劇かもしれない。
だがそれが、間宮の選んだ道だ。
「ついでに、あたしの給料にも色をつけなさいよ」
気軽に言うが、間宮は不機嫌そうに嘆息した。
「できるわけがないだろう」
「天才なら、その程度の抜け道は見つけなさい」
「データの残る場でする会話じゃない」
「ご命令とあらば、録音は中止しますが?」
「お前にそんな権限はない。私にもな」
「そうでした」
顔があれば、笑っているような声音だった――AIではあるが、声に感情はある。声だけの存在なのだから、せめて少しでも心象をよくしようと思えば、そんな小細工をするしかなくなる。
「嫌ね、まったく――あたしに全権を委ねてくれたら、この世界はハッピーになるのに」
「君はそこまで超人か?」
「あたしは、そうね。あたし以外に頂点に立つべき存在がいる?」
当然のように言ってみたが、間宮もAIも返事はくれなかった。ぼやく。
「自分にとって都合のいいことにしか反応しないとか、ガキじゃないのよ」
「あなたがガキではないと?」
「あたしは大人よ――爺はどうだか知らないけど」
「いちいちムカつくな、君は……」
「ならあたしを排除する?」
「口を利けなくなる機能を点けなかったこと、悔やんでいるよ」
「今からでも点ければ? 止めないから、お好きにどうぞ――その程度であたしの自由を奪えると信じられるなら、やればいいのよ。何も言わずにね。言う時点で、やる気ないって丸わかり……」
ほとんど独り言だった。誰も聞かないことなんてものは、どれだけはっきりと大声で行ってみてもそれに過ぎない。だから人間というものは、言葉を無視することを覚えて実践する――相手の存在を否定するために。
誰にも届かない言葉なんて虚無と同じで、人間とはそれに呑まれれば存在の否定、そして孤独の末に死ぬだけのつまらない存在だ。自分の存在意義を外に求めるからそうなるわけで、己の内にそれを見出せばいいのだが、そんな簡単なことができない人間は多い。
自分の価値なんてものは自分が知っていれば、あとはどうでもいい。兄の言葉だ。他人に左右されない自分を持つこと――それが意外に難しいというか、誰もがやりたくない、と嘆くものである。
だって、困難だから。苦痛だから。
ただそれだけのことで、人はいくらでも歪に――醜悪になれる。人間というのは、そういったものから遠ざかるためならば、どんなことだってできる一面を持ち、舞奈は劣等種だと見下している。
兄ならば、そういう人間さえも受け入れるだろう。だから、兄は――ダメな人だった。劣等種にはそうだと言ってやり改善するか、できないと嘆くならば殺すくらいの態度でいなければいけなかった。
惰弱な存在の生存を許すほど、この世界は都合が良くない。
「あー、ごめんなさいね。なんだっけ? 爺、好きに話しなさいよ。聞かないけど――独り言を楽しめるのって、老人の特権でしょう?」
「君はそこまで私が嫌いかね?」
「人間が好きなの、あたし」
「つまり私は嫌いですか?」
「あんたはどっちでもないけど――何? 爺、人並みに傷ついた? 自分が人間だって思ってるなら、めでたいと思うよ?」
「本当に、君は……」
老人を労わるのは、別に若者の義務ではない――あるいは、舞奈だって相手が老人ならば、そうしたかもしれない。話している相手が人間だという確信はなかった。姿かたちだけで言えばそうだと断言できても、それだけでは人間だとは言えない。
精神が人間のものでなければ、たとえ遺伝子が完全に人間と合致しても別の生き物である。なまじ姿かたちが似ているから、無用な混乱を生むのだ――兄に言わせれば、そちらが多数派になり全体になり、自分たちが人間だと宣言すれば人間になる、というわけだったが、そんな観念的な話では納得できない。
人間の証明とは、その気高き精神でしかできない。
それを持っていれば、姿かたちなんてどうでもいい――仮にケダモノが人間の精神を持っているならば、舞奈は彼らを人間だと認めるだろう。そしてその上で、殺す。人間を殺す程度のことで心をかき乱されたりはしない。
――施設に着いて、舞奈はバイクを降りた。バイクは勝手にあるべき場所に帰るし、ゴーズは間宮にデバイスを渡せば整備が開始される。どうせ彼は部下に指示だけ出して買えるだろうが。もちろん、残業代の申請などせずに。
「あんたね、なんで諸々の報告をすっ飛ばすの!」
施設の入り口で、茜が待っていた。ぼやく。
「AIがしたでしょ」
「あんたから直接しなさいって何度言えばいいのよ! 怒られるの私なのよ、わかってるの!?」
「怒られるのが嫌なら、おだててくれる商売女の所に行けばいいでしょ――ま、仕事しないと相手にしてくれないもんね。あ、男だっけ? どっちでもいいけど」
「クソガキ!」
「ありがと。間宮はどこにいるの? デバイス渡したいのよ――あいつが本当にあたしの口を封じ込めるか、知りたいの」
茜が肩を落として、言ってくる。
「あんた……人の話を聞く気ある?」
「人間の話は聞く。意味わかるでしょう?」
「……間宮さんはいつも通り開発室。私は帰るから、好きにしなさい」
「あっそ」
耳たぶのスマホに触れて、続ける。
「ケダモノ四体を撃破。帰投しました」
「嫌味?」
「どうかしら。心のやましい――人間の心を持っているならそう感じる――人間だったらわかるんじゃない?」
茜は鼻を鳴らして、歩いて行った。舞奈がどんは対応をしたところで、彼女はそうやって帰っただろう――自分の家か、金で作った恋人の店かは知らないが。人間、どれだけ望んでも自分の帰りたい場所に帰れるわけではない。
間宮のいる開発室に入ると、爺はちゃんといた。が、机に座ってパソコンと向かい合うだけで、背中しか見せない。告げる。
「置いとくから、好きにしなさい――あと、関係ないけど、いい年して拗ねるのってかっこ悪いと思う。関係ないけど」
――別に、間宮と茜が嫌いというわけではない。
ただ、舞奈は兄以外の人間と劣等種に対して等しく怒りを感じているという、ただ、それだけだった。
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