第一話 シーン十三 【ワンコイン少年】

第一話 シーン十三 【ワンコイン少年】





 レアンたち一行はかなりの大人数で引っ越しをすることになった。


 まずキリイの村で馬一頭付きの馬車をご厚意で格安に譲ってもらい、ハピルとケインを村に残してアンナを含めた五人でカタルスの街に戻る。


 そこでギルドに顔を出して報酬をもらい、マスターにイグスのギルドの紹介状を書いてもらって別れの挨拶をしてから、借りていたイマイ家の後片付けをする。


 その間にアンナさんも身辺の整理をしてもらって、馬車に荷物を乗せるとキリイの村に戻った。


 ようやくここで北のイグスの街へ旅立つ準備として、保存食の確保や向こうで売れそうな名産品を買って出発した。


 イグスまでの距離は約三〇〇キロメートル。


 七人の人を乗せて移動するので、馬にムリのないスピードで六日位の行程だ。


 道中の天候もよく馬車のトラブルも少なかったので川で水浴びをして魚を採ったり、道なりの果物を採ったりして食べる。


 レアンは故郷にいる頃は近い距離の土地間の移動がほとんどで、あとは三年に一度の王都にしか行ったことがなかったから、旅みたいで楽しかった。


「川の魚は骨がたくさんあって食べるのは大変ですけど、美味しいですね」


「そうでしょー!塩だけでこんなにうまーい!新鮮なものにはかなわないよね☆」


「……はむはむ……はむはむ……この木苺も美味しい……レアンに上げる……あーん」


「え?いえっ、ハヅキさん自分で食られますから!……あーん。もぐもぐ……酸っぱい!……でも美味しい」


「あー!私もやるー!ほら、レアン……あーん☆」


「サツキさん……いやっ……その……あ、あーん……」


 そんなレアンたちのやり取りをアンナとキョーコが微笑ましく見ていた。


「すごく仲がいいですよね、みんな」


「ええ♪ちょっと甘やかし過ぎかな~って思っちゃうけど」


 その横でハピルとケインがパンをふたりで分け合って食べていた。


「ほらー、ちぎって、がぶー!ほへへへおいひい!」


「がぶー!おねーちゃん変な顔!あははは!」


 こちらも姉弟のように仲が良かった。


 ハーピーの頃の記憶と重なるのか、すっかりケインは懐いている。


 今日はイグスまでの旅程で最後の夜だったのでいつも以上に全員はしゃいでいて、夜も遅くなりアンナとケインが寝たところで、他の五人が焚き火を囲んで顔を合わせた。


「ケイン可愛い……私も子ども欲しい!」


 みんなで温かい飲み物を手にしていると、ハピルが最初にそんなことをいい出してレアンの隣に体を寄せて鼻をクンクンとひくつかせる。


「人間になるちょっと前、あの時の薬の匂いと魔法?の暖かさ、キミのだったよね!ねえ……キミの子ども欲しいな♡」


 突然のセリフにレアンは口に含んだお茶にむせて、サツキは「ぶーっ!」と派手に吹いた。


「げほっ……げほっ!……にゃ、にゃにを??」


「なななな……なんば言いよっとー⁉いっちょん意味わからん‼」


 慌てるふたりにハピルは嫌そうな顔をする。


「ふたりとも汚な!ぺったん娘はニンゲンの言葉!話して!」


「ムッキー‼元ハーピーのあんたにいわれたくなか‼それにぺったんじゃなかけん!」


「……静かに、です。起きてしまうから」


 ハピルとサツキのやり取りにハヅキが注意して、ふたりとも『ごめん』と静かになった。


「そっか~ケインくん可愛いもんね♪ママも弟作り今からでも頑張っちゃおうかな♡」


「ママまでいい年して何を……いえ何でもございません。とても若くてきれいな自慢の母でございます」


 キョーコの悪ノリを突っ込んだサツキが、満面の笑みになった母親の顔を見て謝る。


「ちぇっざんねーん!いいもん、そのうちこっそり頂いちゃうから!」


「……ダメ。私のオモチャを使うのは禁止、です」


 ハピルがぼそっと口にした言葉を、ハヅキがピシャリと釘を差した。


「まあでも、私はサツキちゃんハヅキちゃんの歳で赤ちゃんいたわけだから、いろいろあってもいいんだけどね♪中央大陸は一五歳でお酒も飲める大人なんだし」


「もう……キョーコさん、あんまり変なこといわないでください」


 レアンは顔を赤くしながら、小さくなってお茶を飲んだ。


「うふふ♪あ、そうだ。そういえば報酬の分配してなかったわね。みんな、ひとりずつ取りに来て?」


 キョーコはふと思い出したのか、お金の袋を取り出した。


 するとサツキとハヅキがすぐに並んで、ハピルも何故か後ろについたのでレアンも習う。


「はい、サツキちゃんよく頑張りました♪今回は銀貨一五枚ね♪」


「わーい☆ありがとー!ママ大好き☆」


「次はハヅキちゃん。よく頑張りました♪銀貨一五枚ね♪」


「……いただきます、です。何を食べようかな……ふへへ」


 姉妹が喜んでお小遣いをもらうと、次はハピルが手を出した。


「はい、ハピルちゃん。よくケインくんを守ってもらいました♪銀貨五枚ね♪」


「お金もらった!お金!使い方教えて!」


 ハピルははじめて手にする銀貨に大喜びだ。


「じゃあ、最後にレアンくん。冒険者の初仕事頑張ったわね♪今回は特別ボーナスで三〇銀貨よ♪」


「は、はい……!ありがとうございます……こんなに頂いてもよいのでしょうか?」


 姉妹の倍もらえて恐縮していると、キョーコは少し真面目な顔になる。


「前にもいったけど、そのお金は貯めておいてレアンくん自身を買い戻す為のお金にしなさい。早くしないとドンドン生活費も上乗せされていくからね~♪」


 キョーコから飛び出したふたりの秘密の話を聞いて、双子はすぐさま突っ込んできた。


「え?買い戻すって?どういうこと?ママ……?」


「……横流し?」


「そういえば内緒だったわね。レアンくんとはね『キミに使った全額を返してもらえば奴隷から解放してあげる』って約束したのよ。ね?ワンコイン少年♪今は二・五コインくらいかもだけど♪」


 キョーコの発言にサツキとハヅキは驚いて、左右から両腕を取り合う。


「嫌!サツキ大反対やけん!せっかくこげん可愛か弟ば出来たとに!」


「……私も反対、です。せっかくおもしろいオモチャが出来たのに」


「あはは、落ち着いてください。すぐという話でも無いでしょうから落ち着いて。……あんまりくっつかないでください。その、ぷにゅ……当たって……。引っ張らないで……あう!」


 レアンは姉妹ふたりからもみくちゃにされながら、楽しいような恥ずかしいような夜を過ごした。





 こうして、ワンコイン少年と母娘パーティーの旅は本格的に始まったのだった。





(第一話 終)

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