第一話 シーン十 【アウルの山】

第一話 シーン十 【アウルの山】





 行方不明のケインはイグス村の北、アウルの山に住むハーピーの所にいる。


 その可能性に賭けてレアンたち四人は入口まで来ていた。


『お願いします!どうか、ケインを……あの子をお助けください!よろしくお願いします‼』


 アンナは山に魔物がいる話を話して、契約通り村で待機してもらうことになった。


「レアンくん。一応いっておくけど、最悪のケースも想定しておいてね。本当にそうなった時、ちゃんと受け止められるような心構えは大事よ」


 キョーコの忠告も、冒険者として初心者のレアンにはありがたい。


「はい、大丈夫です!でも、きっとケインくんは生きているはずです……!」


 レアンの希望の言葉に全員顔を見合わせて頷く。


 アウルの山は自然のままの状態だったが、入口から一〇分ほどの坂が緩やかな所まで車輪の跡があって、ケインが連れてこられた可能性より高まる。


「思ったより大きな山だねー!全部探すのは大変かも?」


 サツキが前衛らしく先頭を歩いていると、遠くから『ピーッ‼』と魔物の鳴く声がした。


「……さっそく向こうから来ました、です」


「はいっ!」


 ハヅキが長杖を手に待ち受けて、レアンも習って打撃棍(メイス)を構えた。


『ピーッ!ピーッ!ピヤアアッ!』


 だがハーピーは上空五メートルから下りて来ずに、大きな翼を羽ばたかせて空中停止した後、足に掴んでいた石を投げつけてきた。


「こらっ!こっちに下りてきなさい卑怯者っ!……っ!本当に当たったら大怪我するからやめなさいってば!」


 人間の言葉でサツキは盾で受け流しながら怒鳴る。


『ピッ!ピッ!ピーッピーッ‼』


 するとハーピーは意地悪そうな顔をして、山肌で石を探してきてはこちらに何度も投げつけてきた。


「あらあら、話通じてるのかしらね?頭のいい個体は人間の言葉がわかるらしいわよ」


 キョーコは時折飛んできた石をひょいと避けて、ハーピーの挙動を見て武器を取り出す。


『ピーッ!ピッピッピッ!ピエーッ!』


 ハーピーはキョーコが弓で狙い定めてきたのを見て、慌てて遠くへ逃げようとした。


「……サツキ、お願い」


「分かってる……いけーっ‼」


 ハヅキの合図にサツキが投石機(スリング)を出すと、丸まった紙をセットしてぐるぐる回して放った。


 シュッ!


 すると紙の中から白いトリモチの塊が飛び出して見事ハーピーの背中に貼り付くと、間髪入れずにハヅキが古代語を唱える。


『原初なる力をもってかの魔力のありかを示せ!センス・マジック!』


 魔法で杖の先が光って、うっすらとした光の紐がトリモチに吸い込まれてつながった。


「すごい!本当に息ぴったりです!」


 レアンは見事な連携に声を上げる。


 もしハーピーが目の前に来たときの作戦の一つとして、魔法石をトリモチでくるみ、相手にくっつけて感知魔法で追跡するつもりだったようだ。


「すぐ追うよ!」


 サツキが先頭になって走り出したが、こちらは山道の登りの上にハーピーの飛行速度に叶うはずもなくすぐに視界から消える。


 でもまだ感知魔法はつながっているらしく、ハヅキは杖を掲げたまま今度は先頭を進む。


「……まだ大丈夫ですが、歩く道は飛行ルートと違うから大変、です」


 途中で山道が別れたので、ハヅキは杖を高く掲げて目を閉じ、もう一度地面を打った。


「……こっち」


「分かった!ちょっと先頭変わるね、お姉ちゃん」


 ハヅキが示した方にサツキが進むと、道が開けてきて視界の端に醜い生き物たちの姿が映った。


 レアンはその魔物を直に見るのははじめてなので、思わず体をこわばらせる。


「あれは、ゴブリンですか?」


「ええ、そうね。あそこにある洞窟の入り口に見張りが二体いるみたい」


 キョーコが答えてくれ、レアンは注意深く見ると棒の先に尖った石を結びつけて武装していた。


「……困った、です。あの洞窟の前を通らないといけないみたい」


「よし、分かった!サツキがなんとかする!」


 ハヅキは選択肢がないことを告げると、サツキが剣を抜いて走り出す。


『キエッ⁉キエエエエッ⁉』


 やがて見張りのゴブリンがこちらに気づいて大声を上げると、中から四匹の援軍が現れ六匹になった。


「ちょ!思ったより多かったばい!お姉ちゃん、魔法で援護してくれんね⁉」


「……無理。別の魔法唱えると感知の効果が途切れる、です」


 サツキは思わず急ブレーキをかけて、姉を見てから次に母を見る。 


「うえええっ⁉ママー!助けてくれんね⁉」


「もう……しょうがないわね♪みんな目と耳塞いでくれる?」


 次に助け舟を求められたキョーコは、腰のポーチから手のひらサイズの黒い球体を取り出した。


 全員しゃがみながら目を閉じて耳を抑えたのを確認してから、ゴブリンの群れに投げ込む。


 キュイイイイイイイイイン‼


 地面に落ちた瞬間、ものすごい高音の金属音と共に視界が真っ白に染まるほどの光がほとばしった。


『ミギャアアアアアアアアアッ‼』


 魔法のようなアイテムにゴブリンたちは絶叫して、全員泡を吹いて気絶する。


「す……すごい……。これが錬金術の威力……」


 レアンは耳を塞いでもビリビリくる音圧に圧倒され、若干おしっこが漏れそうになった。


 目を開けると爆発でえぐれたわけではなく、音と光が炸裂したみたいだ。


「ふええ……やりすぎやけん……ママ」


 サツキが一番近くで受けたため、足元がふらついていた。


「ごっめん~♪ちょっと閃音弾の威力高すぎだったわ♪だって実験する所ないから加減が難しいんだもん」


 キョーコが舌を出して「てへへ♪」としていると、ハヅキがジト目で見たあと冷静に警告する。


「……洞窟の中から複数近づいてきてます。恐らく援軍、です」


「みんな!今のうちに通ろう!私が少し引き受けるから」


 サツキの提案に四人共走り出した。


 魔法を使用中のせいかハヅキがさほど早く走れなかったため、入口を通りすぎるタイミングでゴブリンたちが顔を出した。


『キエッ⁉キエッ!キエエエッ!』


「えーい!引っ込んでなさい!うりゃああっっ‼」


 サツキが腕にはめた盾で先頭のゴブリンに特攻して、吹き飛ばした。


 体格的に子ども並みのゴブリンは仲間を巻き込んで倒れて、入り口で大渋滞となる。


「サツキさん!早くこちらへ!『我が神よ、清浄なる光で我が前を照らし給え……ホーリー・ライト!』」


 レアンは戻ってきたサツキが通った瞬間に神の奇跡で光を放った。


 本来なら不死の魔物用の光だが、暗闇から来たゴブリンたちは強い光に目を焼かれてあちこちにぶつかる。


「レアンくんさっそくすぐ応用できるなんてやるわね♪さぁ行きましょ♪」


 キョーコは感嘆の声を上げて、懐から鉄のトゲトゲみたいなのを地面にばら撒く。


 少し経って追いかけてきたゴブリンたちはトゲを踏んでしまい地面に転がり、完全に戦意を喪失してしまって追いかけてこなくなった。





 それから一五分、段々斜面がきつくなる坂道を登っていくとひらけた場所に出た。


 山の中腹という感じの場所で、大木があり大きな鳥の巣みたいなのがある。


「……かなり近くにいるかも、です」


「ということはケインくんもいるかも?おーい!ケインくーん!迎えに来たよー!」


 ハヅキの警告に、サツキはいきなり大声を上げたのでレアンはびっくりした。


「ちょっとサツキさん……!ハーピーに見つかったらどうするんですか」


「え?いや、どうせ戦わないといけないからいいかなって!にしし☆」


 レアンの抗議の声に、サツキは八重歯を見せて笑う。


 余裕があるのはいいことだが、能天気すぎてレアンもつられて笑ってしまう。


「ねえ、あそこ見て?」


 キョーコは鳥の巣から顔だけ出した男の子を指差すと、他の人も気づいて全員で手を振った。


 だがこちらを見ても怯えたようにすぐに顔を引っ込める。


「あ、あれ……?」


 レアンが予想していなかった反応に戸惑っていると、上空から魔物の鳴く声がした。


 慌ててメイスを構えると、ハーピーはこちらに向かって急降下してくる。


「き、来ます……!」





(続)

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