第12話 秋雨の夜
どこからか、祭囃子が聞こえる。
こんな、今にも雨が降りそうな涼しい晩に、夏祭り、いや、秋祭りだ。
微かにしか聞こえないから、多分離れた所だろう。神社かもしれない。
ニュースを見ながら、妻が、
「今度選挙があったら、一緒に行こうね」
と言う。
今まで妻は外国人だったから、選挙権がなかった。しかし日本国籍を取得したので、これからは投票ができる。
彼女の前の国は、1党支配の国だから、投票なんかなかった。
きっと、彼女は嬉しいだろう。選挙権があるということが。
ー風呂に入ろうかな。
ぽつりと彼女が言う。
仕事が休みの私と、学校が休みの息子の3度の食事を作り、皿を洗って大変だったろう。
ー風呂のお湯くらい入れてやるよ。
ー本当? ありがとうございます!
毎日毎日掃除に洗濯、3度の食事、大変だったね。いやになることもあるだろう。よく、28年も続けてくれたね。
それを考えると、風呂を洗ってお湯を張るくらい、お安い御用だ。
そうそう、今度選挙があったら一緒に行こうね。
親子3人で行ってもいいね。
近くの投票所まで歩いて行こう。
第3中学校だよ、投票所は。
お囃子はそちらの方から聞こえているような気がする。
中学校の近くに神社がある。
毎年初詣に行く神社。
ーあの神社かもしれないね。
私が言うと、
ーうん、きっとそうだよ。
と彼女が言う。
しかしザーッと雨が降ってきた。私は、
ーあいにくの天気だね。
その時、風呂が沸いた。
ーゆっくり入るといいよ。
お囃子は雨にかき消されて聞こえない。
寂しい秋祭りの夜。
雨の日の秋祭り。
12編のエッセイ レネ @asamurakamei
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