第4話 懐かしきペンフレンド
むかし、むかし、そのむかし、まだメールやラインなどない時代、文通という交流手段があった。
ある旅行雑誌の文通欄に、気まぐれに送った葉書が採用されてしまった。
『旅行とは、僕にとって人生の休日のようなものです。それは豊かに包み込んでくれるので、自分さえもが景色の点景として心に残っていくようです』ーレネ
ちなみに文章は1字1句違わず、当時のものそのままである。
さあ大変、それから2週間位の間に50通くらいの、若き女性たちからの手紙が自宅に届いた。これには私自身、びっくりした。
当時は、雑誌に住所氏名年齢が、そのまま載ったのである。
ちょうどワープロが出始めた頃で、私は一台持っていた。これは幸いだった。
心のこもった手紙や、気に入った手紙には自筆で返事を書き、後は全てワープロで打った1つの手紙を、名前のところだけ一人ひとり変えるという方法で返事を書いた。申し訳なかったが、どうしようもなかった。
すると、30通から40通くらいはまた返事が来る。そこで、また同じ返事の書き方で皆様に送る。
それを何度か繰り返すと、最後に3、4通が残り、それらは皆、やはりこちらが(本当に文通がしたい方)と睨んだ方達で、本気で、真面目なのだった。
その方達とは写真を送り合ったり、実際に関西から会いに来られた方や、セーターを編んでくださった方などもおられて、しばらくは文通が続いた。
しかし実は、私は最初から青森のある女の子が1番気に入っていた。
学校の先生を目指している大学生で、容姿はまあ普通なのだが、『手紙の上』で気が合った。
私たちは映画の事や小説の事などを、手紙で語り合い、また時にはもっとプライベートな事も書いたりした。そんな文通が、2、3年続いたと記憶する。
ある時、その方は見合い結婚をすることになった、と書いてきた。
申し訳ないけど、もう手紙のやり取りは出来ない事を許してほしい。
それはおめでとう。よかったね。
本当は、もっとレネさんと深く知り合いたかった。もっと、もっと。
最後の言葉はとても心に染みた。1度も会うことはなかったが、恋人のように感じた。
文通をしながら、別の女の子の尻を追いかけていたのを申し訳なく思った。
それ以降、手紙は来なくなった。
私も、もちろん相手のことを考えて、一切出さなかった。
それっきりである。
今頃どうしているだろう。
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