第3話 天然のシャワー
ベランダが汚れているのは知っていた。
ちょっと訳あって細かい土が随分くっついている。
葉っぱが大分散らばっているのにも気付いていた。
そうした家の掃除はほとんど妻がやる。
私は忙しさにかまけて、そうした清掃を全くやっていなかった。
突然、大雨が来た。
家じゅうの窓を閉める。で、ベランダの部屋に戻ってくると、妻がデッキブラシを準備して、カッパを着込んでいる。
「何するの?」
「天然のシャワーよ。掃除するのにちょうどいいわ」
「やめろ、やめろ、じゃあいいよ、オレがやる」
私はTシャツを脱ぎ、デッキブラシを妻から取り上げると、裸足でベランダへ出た。
まずは排水口にたまりつつある枯葉を拾って回る。天然のシャワーを浴びながら。パンツ一丁である。
うちは自然が豊かな分、枯葉などが敷地に舞い込んでくるのをどうすることもできない。
念のため付け加えると、パンツ一丁でも、どこからも見えない。
しばらく格闘して枯葉を取り切ると、デッキブラシで汚れの掃除である。なかなかに頑固な汚れは落ちないが、それでもこすっていると雨に汚れが流され、キレイになっていくのが分かる。
「すごいキレイになった! もういいよ!」
妻の声と差し出されたバスタオルに、ここが潮時かな、と、タオルを全身に巻いて今度はホントのシャワールームに移動する。
さーっと全身を流してはい、終わり。
「ありがとう」
「いいよ」
「パンツ一丁のあなた、カッコよかったよ」
と妻が言う。
「そう」
とだけ答え、
「また今度、ちゃんとやるからね。また今度ね」
そう言いながら、妻の笑顔もあって、少し爽やかな気持ちになった。
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