第15話 舞の不安
舞は授業終了の鐘が鳴ると、城に急いだのだ。
しかし、入り口には門番が鋭い目を光らせていたので、簡単には入れる状況では無かったのだ。
私は城の中に入りたかったが、今はただの薬師の学生の姿なのだ。
カクやヨクがいれば一緒に問題なく入れたのに、私個人では入ることすらできない・・・
自分の立場を思い知らされたのだ。
王様に取りついでほしいと言っても、相手にされないだろう。
どうしたら良いかと考えている時である。
私の気持ちが伝わったのか、奥の方からカクが歩いて来たのだ。
「カク!
今、魔人の二人が王様に会いに来てるわよね。
私も後で伺う話になっているの。
ヨクもいるのかしら?」
私は入り口からカクに向かって叫んだのだ。
するとカクは私を見つけると、嬉しそうに走って来てくれたのだ。
「いま、舞を呼びに行こうと思っていたんだよ。
話は聞いたよ。
大丈夫だったかい?
みんな揃ってるよ。
今回は学校で起きた事なので、学長も一緒なんだよ。」
カクはそう言うと城の門番に問題ない事を告げ、私達は王の元に急いだのだ。
以前も伺った事がある執務室に入ると、一度だけ面会した学長、ヨク、シウン大将そしてユークレイスとアクアも揃っていたのだ。
「お久しぶりです、オウギ王。
この度は、薬師大学校への取り計らいありがとうございます。」
そう言って私は頭を下げたのだ。
「ああ、舞、久しぶりではないか。
どうだい?
勉強は楽しいかな?
今回は大変だったね・・・
特に怪我などはしていないかい?」
オウギ王は私を見ると、心配そうに声をかけてくれたのだ。
「はい、体調は問題ありません。
授業はとても興味深く、楽しんでおります。」
「それは良かった。
舞は知っている事も多いだろうが、今回の話を聞いてもらいたいと思う。」
オウギ王はそう言って、席に着くように促したのだ。
私が席に着くのを見ると、ユークレイスは立ち上がり先程の学校での件を話し始めた。
それを聞き終わった後、ヨクが口を開いたのだ。
「すでにこの世界に入り込んでいる訳ですな。
どうにかそれを探し出す事と、それに対する対抗策が必要なのだが・・・
先程薬師の者達とオウギ様と話し合ったのだが、あまり良い意見が出されなくてな。
しばらくは、洞窟の行き来を止めるしかないのではと言う声もあるのだよ。
せっかく交流が始まったばかりであるので、残念ではあるのだが、対策が無ければのう。」
それを聞いた学長も声をあげたのだ。
「今回のように学生が侵食されるなど、もっての外ですな。
先程侵食された学生は、薬師をしている父親と一緒に魔人の国に行っておったのだよ。
どうもこちらに戻ってからは時折無表情になったり、ブツブツと独り言をしたりと、明らかにおかしかったようなのだ。
学生の身分でそんな危ないところを出歩いているのが問題なのだよ。」
「まあ、シウン大将の報告では、今のところ他には侵食された者はいない様なのだがのう。」
そう言いながらも、ヨクは難しい顔をしたのだ。
何だか、話の流れが嫌な雰囲気になっている気がしたのだ。
学長はまるで魔人の国がさも危険で悪い場所の様に話したのだ。
それを聞いた二人の魔人も黙ってはいたが、表情を見れば面白く無い事は明らかであった。
魔人の国が悪い訳ではなく、どこからともなく来た黒い影が問題であるはずなのに、私も学長の言葉が引っかかったのだ。
私は話を聞いていると、せっかく人間と魔人の交流が始まったばかりなのに、あの黒い影のせいでまた隔絶する事になるのではと不安になったのだ。
五百年前魔人達がこの世界を去ってから、人間と魔人が接する事は無かった。
しかし、王達の意図せず転移の洞窟が出現した事で、再度国交が結ばれ、行き来が開始したばかりなのだ。
だが、今回黒い影への対策が出来ないのであれば、洞窟を閉鎖することも仕方ないのかもしれない。
オウギ王を見ても険しい表情をしていたのだ。
私は何か策は無いかと一生懸命考えたのだ。
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