第16話 舞の思い

 舞はオウギ王やヨク達が議論している間、色々な事を思い出していた。


 私は以前から少し思う事があった。

 黒い影の集団は、魔人の森を侵食してエネルギーを吸い取っていた時、なぜか魔獣は操るという選択をしたのだ。

 そして、黒翼人のクロルの中に入り込んだ時も、エネルギーを吸い取り消滅の方向ではなくあえて操り、兄であるブロムと戦わせたような気がしてならなかった。

 もしかすると植物と違って、上手くエネルギーを吸い取れないのか?

 もしくは、誰かの意図が存在したのだろうか?

 今回教室に現れた黒い影達も、今まで見たものと同じ選択であったのだ。


 そう考えると、この黒い影達を動かしている者がいるのかもしれない。

 それはとても恐ろしい存在だと思うのだ。

 黒い影は人を操る事もでき、姿形などもコピーする事もできるはず。

 力や能力までは無理でも、誰かの記憶にある者の姿にはなる事が出来るのだ。

 人間の世界でそんな事が起きてしまったら・・・

 考えただけで恐ろしく、私はこの場で発言する事は出来なかった。

 やはり、あの洞窟の閉鎖が一番良いのかもしれない。

 そう思っていた時、オウギ王が口を開いた。


「今回の件は再度対策を練ることにしよう。

 魔人のお二人がいたおかげで大事には至らなかった事、大変感謝しておりますぞ。

 ブラック殿に状況をお伝え願いたい。」


 そう言って、オウギ王はユークレイスを見たのだ。


「かしこまりました。

 すぐに状況を報告いたします。

 では、我々はここで失礼いたします。」


 そう言うと、二人は執務室を出たのだ。

 

「私も失礼します。

 二人と少し話したい事があるので。」


 私はそう言ってみんなに頭を下げると、急いで二人の後を追ったのだ。


「二人とも待って。

 話したい事があるのよ。」


 追いかけて来た私を見るなり、アクアが噛みついてきた。


「舞、あの偏屈な老人は何だ。

 王が立派であっても、あんな奴が近くにいるなんて、問題だな。

 我々が来なければもっと大変なことになったと言うのに。」


「ええ、その通りだわ、アクア。

 あの学長の言い方はひどいわね。

 でも、王様は感謝していると思うわ。」


「ああ、王があんな奴でなくて良かったよ。」


 そんなことをアクアが言っている横でユークレイスが私に目を向けたのだ。


「舞殿、私達からも聞きたいことがありました。」


「そうだ、舞は何であんなところにいたんだ?

 ブラックは知っているのか?」


 アクアにそう言われ、私は一瞬言葉に詰まったのだ。

 そして、ゆっくりと二人を見つめた後言ったのだ。


「ええと・・・まだブラックにはここに来ている事は言わないでほしいの。」

 

 それを聞くと、二人の魔人は顔を見合わせ不思議な顔をしたのだ。


 私達はカクとヨクのお屋敷で、少し話をすることにした。

 アクアの腕に掴まると、私達は一瞬でお屋敷の前に移動したのだ。

 魔人の力は本当にすごいと、いつも感心するばかりなのだ。

 お屋敷の中に入ると、二人にお茶を出しながら自分の思うことを話したのだ。

 さっきは言えなかった事・・・あの黒い影達が人間の世界に来ることの恐ろしさを伝えたのだ。


「それこそ、ブラックと相談するのがいいのでは無いか?」


 アクアはそう言って、目の前のお菓子を貪っていた。

 ユークレイスもお茶を置くと、私を見て口を開いた。


「ブラック様にどうしてこちらに来ていることを言わないのですか?

 何かお考えでも?」


「大したことでは無いのよ。

 こっちでの生活が軌道に乗ったら、会いに行こうかとは思っているの。

 今ブラックに会ってしまったら、こっちでの勉強がおろそかになりそうで・・・怖いのよ。

 だから、もう少し黙っていてくれないかしら?

 ちゃんとそのうち会いに行くから。」


 私は二人に今の気持ちをそう伝えたのだ。

 本音は今すぐ会いに行きたいのだ。

 でも、頑張れた自分のご褒美として、取っておこうと思ったのだ。


「わかりました。

 そう言うことなら・・・ただ、アクアが黙っていられるかは不明ですが。」


 ユークレイスはそう言ってアクアを見たのだ。


「ブラックに隠し事は面白いから問題ないぞ。」


 アクアはそう言ってニヤついたのだ。

 

 とにかく、今は黒い影の対策なのだ。

 シウン大将は他に侵食された者はいないと言っていたが、私は不安でならなかった。

 あの黒い影達が、すでに別の人間に移っているかもしれないのだ。

 

 

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