第2話 善行ほど罰をうける。

7時15分。僕はいつもどおり発車直前の電車に飛び乗る。

今日は月曜日。電車の中には憂鬱な顔をした社会人や学生が

缶詰めのように押し込まれていた。今日はあいにく友達と会えなかったので、

電車の扉の前に寄りかかりスマホを取り出した。

インスタを開き友達の投稿に既読をつけいいねを押す。こういったSNSは自己承認欲求が満たされるらしい、自分がいかに素晴らしい生活をしているかを他者に見せつけているらしい。世界一幸せな国と呼ばれていたブータン王国はSNSが普及し始めてから着々と順位を落としている。この個性がひしめく現代では自ら発信しないと埋もれてしまうのだろうか。僕はこのような人々を勝手に「事故承認廚」と呼称している。

勿論親愛の意を込めてだ。

そんなことを思いながらぼーっとしていた中、最寄り駅に到着したことに気が付いた。慌てて電車を降りて改札を出る。そして黒服集団についていき数分歩いたところにあるのが

私立。男子校「洲海学園」

洲海という名前に対し海なし県埼玉に位置している。これも事故承認廚の表れなのだろうか。

校門には今にも死にそうな細い老教諭があいさつをしている。

おはようございますと心の中でつぶやき、申し訳程度に軽く会釈する。

「ゆーう!」

後ろから声を掛けられると同時に腰、、いや尻を叩かれた

「おはよ、斗真。元気だね」

たたかれた尻をさすりながら挨拶をする。

彼は阿部斗真。サッカー部で同クラスの友達だ

「まあな、お前は相変わらず死んでるな。」

馬鹿にしたようににやにやとみてくる

「朝はどうしても弱くてね」

視線は合わせたまま上履きに履き替える。

「今日は生物テストだってよ」

「え、俺勉強してないよ、死んだわ」

どうでもいいが話すときの僕の一人称は俺である。。

とにかくこうして憂鬱な月曜が始まった。

「これは平均度数は、、、であるから__」

数学は嫌いだ。そもそも義務教育では四則演算だけ教えて後は文理選択式でいいのではないかとつくづく思う。私立、いわば中高一貫の進学校であるからやたらと授業の進みが早い。「こんな難しい話を理解できるなんてみんなすごいな、、」と心底思う。しかしほかの席の友達を見渡すとほとんどの生徒は上の空で、後ろの石崎雄斗に至っては寝ていた。起こしてやろうかと思ったがあまりにも気持ちよさそうにしているのでそのままにしてやることにした。「はあ」とため息をつき時計を見た

「まだ授業始まって20分か、、、」

まだ二時間目なのにも関わらず眠気が襲ってきた。

勉強はめんどくさいしやりたくない。でもテストがある。その出来で先生や親からの評価が変わるのだとしたら手を抜くわけにはいかない。

「学校は社会の縮図」とよくいう。まったくもってそのとうりだと思う。

なぜなら警察の代わりに教員がいるし、私立なら税金の代わりに学費がある。年収的な社会的地位はテスト順位や偏差値で換算できるし、法律の代わりに学校の規則がある。仕事を分担する委員会やそれをまとめる首脳の役割を果たす生徒会。規模がけた違いに小さいのはご愛嬌だが、基本的な仕組みは同じといえる。しかしそれよりも僕はカーストというか立ち位置や生徒の行動が社会のように見える。おそらく「学校は社会の縮図」という言葉はこれを指すときのほうが多いと思う。社会的弱者から社会的強者、いわゆる陰キャから陽キャ、文春砲のような噂だとかそういうものを指しているんだと思う。噂だってそもそも本当かどうかわからなければ、誇張されているものが大半である。でもそれを人は水を得た魚のように

人から人へ、口から耳へと拡散されていく。

一度広まりそれが社会の空気となればそれを完全に訂正することはできない。それは現実社会でも、縮図たる学校でも同じことで、その大半が噂よりも大したことじゃないのだ。このような経験は誰にでもあると思う。僕にもある。

 あれは去年の夏や休み明けのことだった。

俺は一人で廊下を歩いてた。その時外国籍のクラスメイト、仁がいじめられていたのだ。

うちのクラスのひとが一人と他クラスが二人。

しかし本人の性格にだいぶ難のあるところもあるので特に気には留めなかった。

ただその時耳に入った言葉が許せなかった。

「お前は外国人なんだから」

そういい、3人のうちの一人が仁を押し倒した。

さすがにダメだと思い

「お前それはないだろ、その辺でやめとけ」

そういい制止させ、大丈夫かとその子に声をかけた。その三人はバツが悪そうにして

彼ら2人のクラスに3人で帰った。

「ありがとう。助かった。」

「仁、怪我無い?」

「大丈夫。」

これで終わるはずだった。いい人になりたかったわけでも、いいことをしたかったわけでもない。ほんの少しの、ただの気まぐれだ。しかしそれから二週間くらい、物がなくなったり、壊されたり、陰口を聞くようになったりするようになっていた。

タイミング的に前回の仁のことでだろうなとおもっていた。しかし証拠がなかったので問い詰めようもなかった。

あの三人は選抜のつながりでその三人の中でクラスメイトの一人、中浦圭吾は中二から選抜を落ちて一般クラスになっていた。僕の学校には選抜と一般があって、選抜が1クラス一般が4クラスという組み合わせで中一から高三まで。という構成だ。

選抜は成績上位四〇人全後が組み込まれる、そういうクラスだ。だからか異様に結束力というか仲間意識が他クラスより多く、一般クラスになってもその傾向が強い。

だから、「選抜組」が一丸になって僕への嫌がらせに勤しんでいるのだと思った。

そんな中のある日、中一のころ仲の良かった今は選抜の鈴木勇がテスト前で居残りしているときに話しかけてきた。

「最近さ、前の仁の件が原因でなんかされてない?大丈夫?」

「あ、鈴木か。いやまあいろいろあったけどやっぱアイツらなのか」

「うん、、、」

話を聞くにあの後仁は先生に報告し先生が選抜のクラスで授業をするときに

軽く叱ったらしい。その時に先生が仁をかばうためか「先生に行ったのは仁君ではありません」この一言で僕に刃先が向いたらしい。

僕はこれを聞いたときに怒りがこみあげてきて、選抜のクラスの教室に走った。

さすが選抜というべきかテスト前はほとんどの人が残っている。

扉を勢い良く開けると三十数人が一斉に俺を見る。中浦はその仁の件やほかの人との仲たがいもあり自分のクラスにいずらいらしくいつも選抜のクラスにいた。

その時も案の定、選抜のクラスにいた。目が合った、その時飛び掛かって、勢いよく胸ぐらをつかんで口論になった、そこから先はあまり覚えていない。だが最後に軽く殴って教室を後にしたのは覚えている。この一件以降、ちょっかいは減ったが、噂がさらに増えることになった。そしてそれは中三六月の今も、いまだ影響している。

「て__優おきろー」

後ろの席から石崎が乗り出してペンで突っつきながら俺を起こそうと声をかけていた。

「んえ。。?」

どうやら僕は寝ていたらしい。

「神田、ここを黒板に解いてください。」

右前にはおとなしそうな数学女教師が静かにチョークを手渡すように向けながら彼女はそう言った。少し、いや割とかなり怖かった。

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