第5話 運命の欠片

 倉庫内に作業の音がかすかに響いている。俺は作業用の机の前に座って、マガジンにひたすら銃弾を詰めていた。これが俺の仕事だ。


 異世界なのに銃器があるという事実は俺にとっていささか複雑だった。せっかく手入れをするなら魔法とかを撃つ道具がいい。そういうのもちゃんとあるがどういうわけだか銃器の類も揃っている。多分、俺たち以外の異世界人が持ち込んだのだろう。


 割り振られた仕事の内容としては、こういった銃器のメンテナンスではあったが、各々の専用の装備はそれぞれが自分で調節をするし、自分でできない部分については専門の技師に頼む。となると必然的に、俺がやるのはこういう誰でもできる作業になるわけだ。

 他にはこの組織で支給している汎用装備の手入れなどもあったが、銃弾を入れる作業が作業時間の大半を占める。


 はっきり言って単調だ。自分が作業用ロボットだかアームだかになった気分になる。あまりにも退屈なので、手を動かしながらなにか面白いことはないかと頭の中で探す。すると、最近、日に日に蒼麻と怜司の仲が怪しくなっていっている、というどうでもいいことを思い出した。他人の星座占い並みにどうでもいい。よりにもよって思い出すことがこれとは、自分で自分に呆れる。

 さらに記憶を掘り下げていっても、以前に怜司がなんかの病気になったとかで、十兵衛が奮闘したこととかしか出てこない。ここ1ヶ月にあった大きな事件といえばこの2つぐらいだ。


 どうにも怜司のやつは順調に周囲の女たちを攻略していっているようだ。十兵衛はこの事件以来、少し怜司に優しくなった気がする。もともと優しくはあったが、それはどこか従者的だった。今はもっと違う接し方になっているように思う。蒼麻は蒼麻で、こっちはついに本格的に互いを意識するようになっていた。夏とかによくやっている、感動恋愛映画を見せられているような気分で俺としては勘弁してもらいたかったが。


 一方で俺にあったことといえば、こうやって夜中に作業をして昼間に起きるようになったことぐらいだった。リア充と引きこもりの違い、といったところか。

 苛つきが手元を狂わせたのか、置いてあったマガジンを手の甲で弾き飛ばしてしまう。それが机の上に置いておいたナイフにぶつかって、ナイフが床に落下。危うく足に突き刺さるところで、遅れて俺の額から冷や汗が流れ落ちる。こんなふざけた連鎖反応で怪我なんて冗談じゃない。


 慎重にナイフを拾い上げて机の上に戻す。これは手入れするために置いてあるわけではなくて、俺の所持品だ。様々な依頼を請け負っているギルドの拠点なので、敵が侵入してくるかもしれない、と言われて持たされたのだ。俺のような素人がこんなナイフを1本持ったぐらいで役に立つとは思えないが、お守りぐらいにはなるのでこうして持ってきている。たったいま、それで怪我しかけたが。

 深呼吸をして自分を落ち着かせてから、作業に戻る。銃弾の山と空マガジンの群れが、俺をまだ待ち構えていた。


 ──俺は無意識に、ここ最近の流れから連想される、ある考えを頭の中から排除しようとしていた。それから、目を背けようとしていたのだ。

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