無理やり女装をさせられたらサークルがクラッシュした話

 何がクリスマスイブじゃい。この野郎。

 大学生活も三年目になったが、相変わらず大学生活は堅苦しく、サークルは男臭い。オシャレでも何でもない。せっかく出来た彼女にはフラれた。一人暮らしのアパートの一室で、同じサークルのメンバー、真野(まの)と、対戦ゲームをやっていた。このクリスマスイブに。

 俺はふう、とため息を吐いた。真野が眉毛を動かしてこっちを見た。

「三好(みよし)、もっとピザ食えよ。せっかくのクリスマスイブだし。あとこれ終わったら何の映画見る?」

「はあ! 何だよこの大学生活!! もっと陽キャになりたいよ俺は」

「誘ったのはお前だろ。矛盾だらけじゃねーか。俺はお前とゲームやれるだけで楽しいよ」

 真野はチューハイをごくごく飲みながら頷いた。その時、俺にあるナイスアイディアが閃いた。

「真野、俺と対戦やって、負けたら家にあるメイド服着ろよ」

「は?」

「ほら、家のクローゼットの奥にあるからさ。元カノが来たメイド服」

「は???」

「俺、寂しいんだって。なんか切り替えが欲しいんだって。馬鹿みたいなやつ」

「お前酔ってるだろ……。ていうか、彼女にメイド服着せるなんて、なかなかマニアックな奴だよな」

「はい決まり~。ね、俺とゲームやってよ。はいはいゲームゲーム~~」

 真野に半ば強制させるような形でゲームをさせた。そして、

「よし! 俺の勝ち! メイド服着て、真野」

「仕方ねえな……。着ればいいんだろ」

 真野はやれやれ、といったように俺からメイド服を受けとって着た。ガタイのいい真野(メイド服)は見るからに似合わなかった。

「似合わなくても逆に様になる感じあるね~。逆にね」

「はあ……。着ただろ。じゃあもう脱ぐからな」

 そうして真野はメイド服を脱ぐと、

「お前も着ろ」

 と俺に手渡した。

「へ? 俺?」

「そうだよ」

「何で??」

「『自分がまさか女装すると思ってなかった人間が強制的に女装される』展開でしか摂取出来ない栄養素があるんだよ」

「お前もマニアックじゃねーか!!」

「いいから着ろ」

「やだ! 俺ゲーム負けてないもん!」

「三好、逆に考えてみろ。メイド服を着ることで、当時の彼女の気持ちがわかる。つまり、それでもっと女性の気持ちがわかるようになって、モテるようになるんじゃねーの」

 そ……、そうなんだろうか?

 絶対そういうことはないと思うけど、時すでに遅し。俺のチューハイ漬けの頭は上手く機能しなかった。

「わかったよ。着るよ」

 俺は覚悟して、おそるおそるメイド服を着た。

「ほら、どうだよ。似合わねーだろ。はい終わり終わり」

「……三好、お前めちゃくちゃ似合うじゃん」

「え? またまた~。そんなわけないって」

「めっちゃ似合ってる。かわいい。すげーかわいいよ、三好」

 真野に熱心にそう言われ、思わず姿見で自分を確認した。確かに、思った以上にしっくりきてる。

 これが……俺……?

「かわいいからサークルのグループに貼ったわ」

 スマホで通知が来る。真野が俺のサークルのグループLINEに、俺の女装写真を投稿していた。

「ばっ……、馬鹿野郎!! お前何してんだよ!! 消せ!! 今すぐ消せ―――」

「お前、ラインで結構高評価されてるけど」

「えっ」

 俺はまたスマホを確認した。画面では「いけるじゃん」「三好、かわいいな」「こんなに似合ってるなんて」「惚れた」「クリスマスイブに何やってんだよw」「元気出たわ」「すね毛は剃れ」等々、思った以上に人気を集めていた。

 えっ……、女装しただけで、こんなに人気が出るの? 普段サークルで地味な俺が……?

 俺はごくん、と生唾を飲み込んだ。

 それから俺は女装にのめりこんだ。そして、サークル内で女装した俺を取り合い、やがてサークルはめちゃくちゃクラッシュした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る