クリスマスイブに強盗に入ったらサンタさんだと勘違いされた話

聖夜、クリスマス・イブ。今、俺は一人黒ずくめの服装で、そして気絶しそうなくらい腹が減っていた。

両親が残した借金、仕事はクビ、路頭に迷い食うものにも困ってしまった。やけっぱちになった俺は、最後の手段、強盗をしようと企んでいた。

このアパートの一階は小柄な男の一人暮らし、来客はほとんど来ない。こっそり窓ガラスを割って部屋に侵入し、金目のものを盗んでしまおう。もし住人が帰ってきたら、包丁でおどせばいい。

というわけで、俺は鈍器で窓ガラスを割った。窓は粉々に砕け、簡単に侵入できそうだ。割れた窓から部屋に入った途端、ぱっと電気がついた。

しまった!? このタイミングで帰ってきたのか。部屋に入ってきた男と目が合う。しかし慌てることはない。俺は包丁を持ってる。こっちが有利だ。

「手、手を―」

手を挙げろ。包丁で脅迫しようと思ったその時、先に小柄な男の方が声をあげた。

「ま、まさか……!」

驚くのも無理はないな。カバンから包丁を出そうとしたら、

「さ、サンタさんですか……!?」

じゅ、純情!!?!?

「どこが!?」

思わず俺は声をあげていた。

「あなた、サンタさんですよね。赤い服じゃないけど、ほら、最近はやりのブラックサンタってやつ。映画とかやるらしいですし。なんなら髭も生えてますもんね。いや~うれしいな~」

サンタ風(※黒ずくめ)。髭(※無精ひげ)。男はにへへ……と嬉しそうに笑った。色々ツッコミどころがある展開だが、乗るしかない。この流れに。

「サ、サンタさんじゃよ~~」

俺は両手を開いてサンタっぽいポーズをとった。小柄の男はえへへ…と子供のように笑った。

しかし、あげるプレゼントがない。何なら包丁しか持ってない。これはどう説明したら……、と慌てていると、ものすごい勢いで腹が鳴った。ああ、と男は呟いた。

「サンタさん、こんな時間まで働いていて、お疲れ様です。よかったら、僕、これから料理を作るので、ちょっと食べていきませんか」




机の上で、めっちゃ高そうな牛肉が入ったすき焼きがぐらぐら煮えている。俺はごくん、と唾を飲み込んだ。

「これ、食べていいのか……」

「もちろん。なんたってサンタさんですから」

男はうんうん、と頷いた。

「じゃあ、いただきます……」

俺は一口食べた。狂うほどうまい。そのまま泣きそうになりながらわしわし食べまくった。満足そうににこにこ笑う男。

「……嬉しいな」

男はぽつり、と呟いた。

「僕、上京したばかりで、友達も恋人もいないんです。誰か来てくれないか、そう思ってたところで、あなたが来てくれた。奇跡みたいだ。いい子にしていたら、来てくれるんですね。本当に嬉しいなあ」

純粋にしみじみ呟く男に、俺は良心の呵責を感じた。この善人の男を脅迫しようとしていたなんて……。俺は、何て最低なんだ。

「あの、俺」

耐えられず俺は話し出していた。

「ごめん、俺、本当はサンタじゃないんだ。強盗犯で……。この家から金目のものを盗もうとしてたんだ、だから……」

「ああ、知ってますよ」

男はすっと、無表情になった。え、と俺は固まった。

「あなた、この家をずっと観察してましたよね。盗みに適した家かって。あなたがこの家に何かするだろうって、予測して、監視カメラをつけておいたんです。そしたら予感的中、あなたはこの家に来てくれた」

「それって……」

「僕は、この家に来てくれるなら誰だって歓迎しますよ。そう、誰だって……」

その時、急にくらっと目眩がしたかと思うと、俺は力が抜けてその場に崩れ落ちた。

「お前、俺に何を……!?」

「器に薬を盛ったんです。ちょっと強い睡眠薬を、ね」

男は倒れた俺にガチャン、と手錠をかけた。

「ずっと一緒にいましょう。せっかく僕を選んでくれたんですから。これから毎日美味しい料理を一緒に食べましょう。ずっとずっと、永遠に……」

最後の言葉が聴こえるか聴こえないかのところで、俺は深い眠りについてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る