残念系吸血鬼と暮らす

 吸血鬼。それは物語にしか存在しない架空の生き物。

 ……というのも今は昔、十年前に『吸血鬼保護法』が制定されてから、吸血鬼は日本でもよく見かけるようになった。日光や十字架、にんにくなどの弱点をクリアすれば、国から支給される『疑似血液パック』を飲んで生きることが出来る。

 何を隠そう、僕も吸血鬼……、と同棲している。相手はトランシヴァニアから来たベルナール伯爵。長い黒髪、白い肌。何百年も生きている、由緒正しい吸血鬼……らしい。

 そんなベルナール伯爵が「夜の散歩に行ってくる」と言う後ろ姿を見送ったまま、戻ってこない。そろそろ朝になって随分たつけど、はたして大丈夫だろうか……。

 ピンポン、と玄関のチャイムが鳴ったので、僕は安心した。鍵を忘れたんだろうか。ドアを開けると、ふらふらとベルナール伯爵が姿を現した。

「血……、血がのみたい……」

 ……なんかサイズがウサギくらいになってるけど、大丈夫だろうか。

「ベルナールさん、サイズ感どうしたんですか」

「まりょくがなくなって……、日光にやられて……」

 じゃあ、本当に朝まで道に迷ってたんだ。近所で。吸血鬼が……。

 いろいろ突っ込みたい気持ちをおさえつつ、ちっこくなったベルナール伯爵に目を合わすためにかがんだ。

「元に戻るためにはどうすればいいんですか?」

「血……、わがはい、血を飲まないと力が……」

「わかりました。台所から血液パックを持って、」

「むり……、まにあわない……、わがはいとけちゃう……」

「溶けちゃうんですか!? 仕方ないですね……」

 僕はミニベルナール伯爵に腕を差し出した。

「じゃあ、噛んでください。血をあげますから」

「たすかる」

 ミニベルナール伯爵はぴょいっと飛び跳ねると、

「かぷ」

 僕の腕を噛んだ。そのままちゅーちゅー吸う。

 ……アニメや漫画では、吸血鬼の吸血シーンって、耽美に書かれてる事が多い。でもこれ、どっちかって言うと『授乳』に近いよな……。

 そのままちゅー、ちゅー、と吸われていると、

「くく、くくく……」

 ベルナール伯爵が徐々に等身大のサイズになってきた。復活したらしい。

「美味しかったぞ人間。さて、次は首筋からいただこうではないか……」

 ベルナ―ル伯爵が美しく笑う。そのまま顔を近づけられてどきどきする。その時、たまたま僕の首につけていた十字架のシルバーアクセサリーに目が点になると、

「あ」

 ベルナ―ル伯爵は今度こそ全身が溶けた。

「ごめんなさい!!! いや待ってほんとごめんなさい」

「人間……、十字架はやめろと言っただろう……」

 全身が溶けて砂になったベルナール伯爵(だったもの)から声がした。しゃべれるんだ……。

「こういう時ってどうすればいいんでしたっけ」

「直射日光に当たらない冷暗所に保管して」

「わ、わかりました……」

 僕はベルナ―ル伯爵だった砂をほうきで掃いてちりとりで集め、とりあえず袋でしばって米びつの隣においてそのままにしておいた。これで安心。

 翌日、ぷちぷちしたサイズのベルナ―ル伯爵が大量発生して、「わー。血をのませろー」とわらわら集まってきて、合体させるのに苦労したのはまた別の話。

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