双子の旅4
私は真っ暗な空間を彷徨っていた。
何もかも失った。
この手の弓矢は倒すべき相手を仕留められなかった。
さざ波のごとく押し寄せる後悔に疲れ果て、弟の姿かたちが心から抜け落ちてしまったら、その空間にはやがて遠い思い出だけが当てはまるのだろうか。
ある時、一筋の光が眼前に降ってきた。
それ以外に標のないこの空間では、光を便りに歩くしかない。
一日ほど歩いた、いや一年くらい経ったのだろうか、あるいは数秒の刹那だろうか。
時間という感覚もどこかに置き去りにしてしまった。
しかし光を辿るにつれ、真っ暗な空間は少しずつ明るさを取り戻していき、砂浜の感触を足に感じた。
次に森の青々とした風が身体をすり抜けた。
そして岸壁の影が半身に落ちていた。
なんという場所だろう、打ち寄せる波、高低入り乱れた木々、蝶や鳥が自由に飛んでは羽を休めている、ここでは釣りや、採集や、鳥の歌で惰眠をむさぼる事すら許されるような、美しい島だった。
私はただ導かれるまま進んで、そびえる岸壁の隙間から巨大な空間に入る。
天井は岩が切りかけていて、日差しが束のように降り注いでいた。
この景色に見覚えはないけれど、懐かしさを感じて涙する。
《我が子よ》
私の目の前には碧い、碧い、竜が佇んでいた。
《アリシャーデンとラニトの血を受け継ぐ子よ、何故竜の権能を求めるか》
碧い竜に私の後悔を話した。
「セテが……アーガスが……リクが……みんな死んで……しまったの、まだ死ぬ時じゃない、私にはそう思わずにいられない……私はどうなってもいい、みんなを助けて、助けて」
碧い竜は優しく、寂しい眼で私を見つめてくれる。私の弱さは竜の優しさに紛れて、胸に詰まる言葉を吐き出すことが出来た。
《アリシャーデンとラニト……200年余りの時は過ぎた、二人と別たれた時、封じ込めた力だが、解放すればお前は人では居られぬ、お前は槍が刺さっても死ねず、火山に焼かれても死ねず、永久に苦しむ体になるだろう。今だ竜の権能を欲する者が蔓延るこの世で、力を察知した存在は必ずお前を見つけ出し、捕らえ、暴き、殺し、それでもなお力を引き剥がそうとするだろう、かつてそうであったように。それに抗う覚悟はあるか》
「あるわ」
竜は私に封じ込めた力が受け継がれているという。それを使った代償がどんなものだろうと、何度尋ねられても、私は自分を犠牲にする。
《この力は再生の権能、復活の力、使ったならば、我が元へ来い。その力を我が終わらせてやろう、人を復活せしめる権能を行使すれば必ず何者かが力の在処を察知するだろう。そうした者たちから逃げ延びるのだ。竜の島は秘匿された場所、まずは北の大陸にあるクレストザンクを目指せ、そこに居る聖女にアリシャーデンとラニトに連なる者であると明かせ、そうすれば我が元へ導かれる》
「……わかったわ。ありがとう、必ず、必ず貴方の元へたどり着きます。」
迷いはない。誰かを死なせない権能を得るために、たとえ針のむしろに落ちて永遠の苦痛を味わうとも死なない身体になっても、それで弟が取り戻せるのなら。
周囲の景色は、美しい島から元居たガルグイユと死闘繰り広げた森へと、徐々に戻っていく。あの忌々しい森へと。
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