第9話 そのメイド、噂される。
※キーパー理事長視点
「キーパー理事長。本当にあれで良かったのですか?」
メモリアさんが入学費を払うために廊下に出てから少し後、プリマ校長が私にそう訊いてきた。
「んー、そうねぇ……」
普段生徒の前ではお調子者なプリマ校長も、さすがに私の前では真面目な表情だ。
彼女も校長という私の次に責任のある立場。
貴族の推薦はあれど、出自のしっかりしない子を預かることを心配するのも分かる。
だけど、私だって何も見ず知らずの女の子の入学を許したわけじゃないのよね。
「実は私……あの子のことを、ずっと前に見たことがあるのよ」
「えっ、そうだったんですか?」
心配気な顔から、驚きの表情へと変わるプリマ校長。
ま、当然よね。今日突然現れた女の子のことを、普段あまり外を出歩かない私が知っているんだもの。
「十年ぐらい前だったかしら。この学校ができたばかりの頃に、グリフィス侯爵家から手頃のメイドを派遣するように要請があったじゃない?」
「グリフィス侯爵……あの聖女のところですか。そういえばありましたね。優秀なメイドをとにかくダース単位で寄越せ、という随分な無茶ぶりでした……」
そうそう。昔からあの侯爵家はやりたい放題だったけど、二代目の聖女が出てきてから……たしか名前はオリヴィアとかって言ったかしら?
その小娘が貴族の仕事に口を出すようになった途端、輪をかけて身勝手さが増したのよねぇ。
「あの小娘ったら、私に大事に育てたメイドを格安で寄越せなんて言ってきたのよ?」
「しかも融通しなきゃ、この学校に不幸が起こるとか意味深なことを言っていましたものね」
同じ侯爵である私に、恫喝まがいのことまでやってくるんだもの。
当時で十六歳ぐらいだったと思うけれど……あの歳でそこまで言えるだなんて、ある意味大物だわ。
それはともかく、その要請を断る為に私は態々あの家まで出向いたのだ。
私だけならともかく、この学校にまで被害が及んだら困るからね。
「その時はたしか、『侯爵家に出すほどの人材が整ってないから』って断ってやったわ」
「それで正解だと思います」
「まぁ、あの聖女のことはいいわ。その帰りにね、グリフィス領にある孤児院に慰問したの」
その時に、あの孤児院の院長と一緒に居たのがアカーシャさんだった。
「当時から彼女は利発的な子だったわ。でも今よりも……ふとした瞬間に見える影が無かったわ」
「たしかあの領の孤児院は……」
「あの聖女が浄化と言って、あの場所から消し去ってしまったわね。彼女はどうにか逃げ延びたみたいだけれど……」
プリマ校長も彼女がその後どんな人生を送ったのかを想像し、黙ってしまった。
アカーシャさんは一見、明るく振る舞っていたけれど……彼女の瞳には昏いモノが映っていたわ。
「いずれにせよ、彼女は生きていた。そしてメイドを目指してここへ来たのよ。少しぐらい応援しても、罰は当たらないと思わない?」
あの時に助けてあげられなかった罪滅ぼし……ってワケじゃないけれど。
さっきも王都で面白いことをしてきたみたいだし、彼女との縁を切ってしまうのは勿体ないと思ったのよね。
少なくとも、彼女はこの学校で何か面白いことをやってくれそうな気がする。
「――分かりました。そういうことでしたら、私も気には掛けておきます。しかし」
「分かってるわ。もちろん贔屓はせずに、他の子と平等にね?」
話のひと段落が付いた私はアカーシャさんが淹れてくれた紅茶を楽しむことにする。
それはまだ拙いながらも、深みのある不思議な味だった。
――――――――――――
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次回より第二章となります。
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