第6話 的中と熱量


 君はとある映画で怪力の演技を披露した。


 その映画は現代日本に舞台を移したワイルドの『サロメ』。


 戯曲の金字塔である今作に君は妖艶で、冷酷無比な王女をサロメを演じた。


 その神懸かった迫真の演技にどの評論家も絶賛し、君の栄光は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。


 


 物語が好きで、謙虚に演技に向かっていた君に悲報が舞い込んだのは、色無き風が吹き荒れる初秋の菊見月だった。


 朝一番にその絶望的なニュースは多くの波乱と共に巻き込んだ。


 君はとある有名監督から性被害を受けていたのだった。


 スクープした週刊誌には煽情的な言葉と共に隠し切れない哀しみの中に潜む怒りが燃え盛っていた。


 ネットユーザーも君を庇い、とうとう、君は逃げ去るように休業を発表したね。


 こんなことになるんだったら、あのとき、止めれば良かった、猛烈に後悔が止まらない。


 君を見出した飯垣悟は抗議声明を出し、この波乱は多くの映画業界や芸能界を巻き込んだ。


 


 


 その悲しい余波を傍らに、僕は何度も君のために指輪の原石を研磨している。


 通常よりも肩が凝っていると集中具合で分かる。


 完成したダイヤモンドは燦然と輝き、僕が今まで、出がけた宝石の中でいちばんの出来のように思えた。


 この研磨した宝石を本来ならば、宝飾デザイナーに託さないといけないのだが、僕は僕の手で君のためだけにデザインした。


 祖父はあまりいい顔をしなかったが僕の熱意には勝てっこなかった。


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