第5話 光風霽月(こうふうせいげつ)、君の


 憑依型の女優と名声を恣にした君。


 周囲の絶賛とは裏腹に君は全く、自信がなく、学校でも浮いていた。


 話しかけるのは僕くらいで、スクーリング会場でもめったに会わない、男子から嫉妬もされた。


 あんなブス男が天下の星原月華の彼氏かよ、と酷い中傷をそれとなく、遠回りしながらも受けた。


 僕らがいた学校は芸能活動も許してくれる、誰もが知るテレビ局が運営している通信制高校だったが、むしろ、にきびだらけで瓜実顔の僕は君を守るのに必死だった。


 


 君が通信制高校に進学したのも、中学時代に虐められ、不登校になったからだ。


 やっと、僕ら二人で静かに生活できると思ったのに世間はそれを許さなかった。


 君は多数のファンを抱え、次々と話題作に出演した。


 どの映画やドラマも君の真摯な物語との向き合い方に演技は愈々持ってまるで、何度も磨くダイヤモンドのように君の女優としての魂は磨かれていた。


 星原、という苗字でさえ、褒められた。


 この『星原』という苗字は南九州に多い苗字で、君の名前も本名だった。




 あまりにも完璧な美少女。


 本名もその美貌も、と褒められれば褒められるほど、僕の不安感は日に日に増大した。


 君はデビューしてからも感性を磨くことを怠らず、忙しい時間の合間を見つけては、シェイクスピアを始めとする劇作家の名作を読み、日本や世界の文豪の本もマスターしてしまった。


 勉強熱心な君はたびたびメディアでもその教養の懐の大きさが報道され、僕は不安感のあまり、そのテレビも見られなかった。


 何か、悪い予感がする。


  何か、悪い予感がする。


 こんな絶大な幸福の光を浴びたら、後で取り返しのつかない不幸の雨を浴びるんじゃないか。


 僕の脳裏には祖父の下で修業に励みながら常に頭の中にはその予感がぐるぐると回っていた。

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