第2話 スカウト


 君はあまりにも美しい少女だった。


 そう、幼馴染の僕が自画自賛のように奢るように言うのではなくて、客観的な事実として僕はやっと言えただけだ。


 僕と君は君のお母さんと僕の母さんが同じ小児病棟で働く看護師で、生まれついてから知り合いの仲だった。 



 平凡な顔付きの僕は宝石職人の家のくせに顔の美醜には不思議なことに無頓着で、君の顔もあばたも笑窪のつもりだった。


 本が好きな君に連れられ、市内の図書館に一日中入りびたり、遠出して文学散歩や本屋巡りをするいわゆる、普通の文学少女だった。


 


 君が神保町駅の前で大手事務所からスカウトされたとき、連れ添いだった僕はそのスカウトした人物が大物のプロデューサーだったことに気付いた。


 通行人が何度も僕らを一瞥し、人だかりさえも生まれた。


 そのプロデューサーこそ、昨今、一世を風靡している、人気のオーディション番組に出演する辛口の飯垣悟だったのだ。


 


 知名度が抜群の天界の神のような飯垣悟に、僕らがたくさんの本を抱え、(もちろん百円で購入した古本ばかりだけど)家路に向かうとしたとき、呼び止められ、振り向いたら多くの羨望の眼差しで人だかりに囲まれたのだから、そりゃあ、驚いた。


 君は本がたくさん入った紙袋を持ちながらびくびくしながら、僕の後ろに隠れた。


 何事か、と思い、気遣った飯垣悟はニコニコしながら代弁するように僕に言った。



「その美少女、君の連れ添いかい?」


 僕はその羨むような、嫉妬するような多彩な色が混じった目線を追いながら、小さくはい、と唱えた。

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