月華宝石箱 ダイヤモンドダストのような君と。

詩歩子

第1話 宝石加工職人


 ダイヤモンドのような月華が地上へ降り注ぐ師走の頃、僕は仕事ではない、ジュエリーを君のために秘密裏に制作していた。


 


 僕の家は代々、宝石を加工する職人の家柄だった。


 物心ついたときから祖父は工房で原石を研磨し、その大地からの贈り物を一流の宝石として、一生涯大事に身に着けられるように、しのぎを削って制作していた。


 そんな宝石の加工の現場を見て育った僕はいつしか、宝石を中心に生活を送るようになり、学校でも宝石図鑑や鉱石図鑑を持参するようなませた子供になっていた。


 


 大人でも知らないような宝石への豊富な知識を何かとあれば、披露していた小学生の僕は、最初は珍しがられていたものの、反感を買うようになり、『清羽(せいわ)君の家は金持ち』と陰口を叩かれるようになり、学校では浮くようになった。


 


 僕の家は加工職人なので加工した宝石を購入するのは顧客であって、僕の実家の財産になるわけではないから、普段の生活自体は慎ましいものだったのだが、やはり、民家が一軒購入できるほどの宝石が工房に常に安置されている家に育つと、微妙な金銭感覚が普通とは違うというか、風変りになるのはしょうがなかった。


 


 祖父は皇室御用達のジェリーを研磨することもある、銘柄を発注する、古風な職人だった。


 中卒の祖父は中学を卒業すると今は亡き、曽祖父の元で修業し、還暦になってもなお、現役を貫いている。


 中学に入ってもその微妙な浮いたままの僕は早く独り立ちしたくて、育ての親の祖父に懇願した。


 中学を卒業したら通信制高校に入りながら宝石職人に専念したい、と。


 


 祖父は特段と反対しなかった。


 自身も職人気質の孤高な人生を送ってきたからだろう。


 あっさりと同意を得られた僕は中学を卒業すると、祖父に弟子入りし、高校は通信制高校に入りながら修業を積んだ。


 一日中、工房に籠っていると夏場は特に手汗が滲み、加工機に錆が付かぬよう、細心の注意を払わねばならない。


 弟子入り当初は工具さえも触らせてもらえず、祖父が作業している光景を見ながら雑用に励む日々だった。


 普段、居間にいる祖父は気さくで優しい祖父だったが、工房に入ると打って変わって、たちまち厳しい表情になる。


 半年も経つと、ある日突然、研磨剤の道具一式を渡され、見様見真似で研磨を始めた。


 祖父がなぜ、半年も見とけ、と告げた理由がこれで分かった。


 


 二十七歳になった今は一人前の半歩前になり、重大な仕事も任されるようになった。


 高校も卒業でき、四六時中、工房に籠って、原石と闘っている。


 


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