第47話

「三人であることは間違いないさ。それはアタシも聞いた記憶がある。それであんたもその記憶を持っていることは間違いないんだろう? じゃあこの三人なのさ」

「では、あとは『世界』とは何かと言うあたりですかね」とエリスが受けて少し俯いた。



「口を挟んですいません。いいですかね」

 少し遠巻きにしていたメンバーの内、聖職者のクレニールがスタッフを出して声を掛けてきた。



「難しい話をしておられるようですが、一応まだ敵地というか。漏らしたゴブリンの一団がある可能性が否定できないですので、安心するには程遠いところです。アニー嬢の手当てが済んだら少し移動したほうがいいんですけどね」



「なるほど。それもそうですね」

 エリスが杖に寄りかかりながらゆっくりと起こした。寒さのせいか白い面が更に白く見える。


「では行きましょう。実は目的地はもうすぐです」

「結局、どこに行こうって言うんだい。事ここに至るまで、それについちゃだんまりだったわけだけどさ」


「えぇ。本来は到着してから開示することとレギュレーションとなっているのですが、もう程近いところまで来ていますので良いとしましょう。私たちはあの漏洩した魔法の作者である術者のもとに行くところです。そのお方はパストン魔術協会の長でもあります」



「長がこんなところにいるってのかい?」

 アニーが厚手のコートを肩に掛けながら素っ頓狂な声を出して揶揄したが、エリスは気にした様子もなかった。



「えぇ。確かに市井の感覚とは異なると思いますが、長はこの山脈の奥の奥にある洞穴に住まわっています」

「へぇ、とんだ聖者か仙人か。何様か知らないが気取るじゃないか」


「―――聖者かどうか。まぁ見れば納得はしていただけることは請け負いますわ」

 エリスは形は良いが薄目の唇を微笑みの形にしてゆっくりと一歩を踏み出す。

 一団はそれぞれそれを追う。


 ティムが顔を上げると出ていた太陽に厚い雲がかかりつつある。そして光に交じって小さな雪の結晶が掌に落ちた事を感じた。




 山道の辛い登りで三刻程過ぎた。その頃には踏み締める岩にまるで白い花のような霜の結晶が無数に付いた。吐き出す息は白くなった。



 小柄なエリスは意外としっかりとした足取りで小道を歩んだ。ティムは足の裏に鈍痛を感じながら顔を顰めフードを深くかぶり直した。指先が寒さで白くなっている。両手を擦りわせるが強い寒気を前に無駄な努力に思えた。



 戦士職のバルゲンは小道に入るところで鎧を脱いで背嚢に収めていた。どの道この足場で襲われれば重たい鎧は負担でしかない。括りつけてある小手が立てる小さい音をティムは地面を見ながら聞いた。



 岩がむき出しになった尾根に差し掛かればすぐ横は切れ落ちる崖になる。誰もが無口になり、自らの歩む足元を見ながら歩んだ。

 エリスが山腹の小さく開けた場所に差し掛かり足を止めた。ティムは大きく溜息を着いた。行きが上がり呼吸が苦しかった。



 白い岩だらけの所だったが、人が十人か二十人ほどは寛げそうな場所だった。何の標識もない場所だったが、エリスは大きな岩に向かって杖を差しかけて、口の中で何かを唱えながら指で枯れた葉のようなものを撒いた。葉が崩れ落ちて地面に着いたところで、目の前の大岩は揺らぎながら見えなくなり、そこにはぽっかりと開けた洞穴の口が開いていた。

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