第46話

「ではあなたは? ティム・ライム。特に何かの才能がある様子は見受けられないですが」

 そうエリスは言い黒い箱をふところに収めた。それを見てアニーもブラスナックルをブーツに戻す。



 二人からそう遠くないところで見ていた戦士職のバルゲンはあからさまに安堵した表情を浮かべて剣を収めたのが見えた。目線だけで「面倒を掛けさせないでくださいよ」と伝えてくるあたり、熟練の戦士だった。



「……なんでもないですよ。ただの人です。あなたたちみたいな」

「みたいな?」

 アニーがエメラルドのような瞳をすっと細めて目線を送って来る。ティムは軽く咳払いをして「あなたたちみたいなきれいな女性とは関わる機会はなかったですよ。ただの人です。ただの」と言った。



「はは。言うじゃないか」とアニー・コルトは言ったが、エリスは疑わしい態度を崩さずに「それで誤魔化せると思ったわけじゃないでしょうね。少なくともKGBを知っていることは事実なのです。あなたな少なくとも第二次世界大戦を知っている。そうでしょう」



「だからってなんです。僕が実際にこの世界で生まれたティム・ライムであることもまた事実ですよ。あなたたちが実際にこの世界に生まれたようにね」

「―――贈り物は」

「贈り物?」

「そう。便宜上そう呼んでいます。あの事務員の贈り物。私の箱でありアニーさんのナックルのようなものは無いんですか?」



 あるだろうか。心当たりがない。

「さぁ残念ながら思い当たりませんね。生まれてこの方、人より優れたことなんてなかったですからね。おかげさまで今は半ば以上犯罪者です。そんな力がったらもうちょっとましな人生を送りたかったと思いますけど」



「湿っぽいこと言うじゃないか。そういうところで貧乏くじを引くんだよ。反省しな」

 アニーは漸く落ち着いたのか、皮袋からワインを直接呷りだした。景気付けをしたいようだった。



「なにやらごまかされているのでしょうが、まぁ良いでしょう。この三人が前世からの記憶を持ってきているのは間違いないようですが、まさかほかにもいるんじゃないでしょうね」

「それはこっちのセリフさ。アタシの周りにはいない。勿論この穀潰しの周りにもいやしないさ」



「ちょっと待った。穀潰しって僕の事か?」

「あんた以外誰がいるのさ。何の役にも立っていないんだから穀潰しだろう」

 ティムはやや納得がいかなかったが黙ることにした。これまでの人生は大抵黙って何かをいなしてきたのだ。



「いないで良いのですね。ではこれで全てなのでしょうか」

 エリスはやや当惑したように言った。

「私は割と正しくあの事務員の言葉を覚えています。世界を救えと言い捨てていました。これは一体どういう」



「言っていたね、確かに。だから何さ」

「あぁ。だったら三人の訳が無いと思ったのです。三人で世界を救えなんて滑稽じゃありませんか」



 それは確かにその通りとティム・ライムも思った。

 右手で火に棒を突き込みゆっくりと落ち着いてきた炎を掻き立てる。ティムも女神の言った言葉は今になって漸く思い出せるようになった。女神は三人借りることが出来たとも言った。という事はこの三人が女神が借りた者たちとなるのだろうか。



 エリスやアニーには特別な力がある。しかし自分にはそれらしい力はない。

 という事はもう一人いる可能性がある。

 そう言うと二人は少し顔を顰めて首を振った

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