第18話
ティムはそのすべてを倉庫の端から見ている。
赤毛の女がレナード容疑者に圧し掛かり耳元で何かを囁いている。男の手はせわしなく彼女の背中を撫でさすり、胸元に差し入れて豊満な柔らかいものを撫で回している。赤毛の女は嫌がりもせずにそれを受け入れ、そして男に唇を寄せた。
金髪の女二人が禿頭の男の衣類を剥ぎ取っているのが見える。二人共、赤毛の女と同じように、フードの下はコルセットのみだった。
嫌がりもせずに男に肌を寄せる二人をみて、ティムは複雑な思いに駆られる。
数時間前、隠れ家から出たアニーはそこからほど近い準軍事組織の詰め所に立ち寄った。
詰め所というか、そこは具体的には大衆的な宿屋の一室だった。ちゃんと受付があり老婆がカウンターの奥でちんまり座り込んでいる。棚にはうっすらと埃が積もっていて、暫く掃除が入った様子が無い。ティムにはそこが本当に宿だったのか、宿に偽装をした隠れ家なのかいまいち判別がつかなかった。
アニーは挨拶もせずに踏み込み二階まで上がり込んで、一番奥まった部屋にノックもなく立ち入った。
二,三人の男女がお互いに全く興味を持たないかのように座り込んでそれぞれ作業に没頭しているようだった。
アニーはこちらを見もせずに「わかっていると思うけど、他言無用だよ。一言でも漏らしたら首から上を吹っ飛ばしてやるから」と言った。
ティムはそれには答えず、部屋を見回してみる。
手狭な一室。分厚いカーテンが窓に引かれている。カーテンの隙間から光が差し込んでいるが、それをあえて遮り、室内に光を灯していた。小さなソファーに女が二人、男は床に座り込んでいる。男は盗賊なのだろう、ツールボックスを整理してやたらに鋭い針をさらに尖らせようと砥石に掛けていた。
女二人はソファーに腰を掛けているが、全くお堅い格好でラフな服装のアニーとは対照的だった。グレーの外套を着込んで喉元まで
こういう制服は王宮で見たことがあるとティムは思い出す。豪華ではなく優雅さ、ついでに目立たない事が求められた末の服装。
アニーが片手を上げて軽く合図をすると女二人が興味もなさそうに「レナードがどうやら誰かと待ち合わせをしているようです」と答えた。
「誰と会うかっての判っているのかい?」とアニーが聞くと、金髪の片方が「最近しきりに付き合う男が居ます、これがどうも正体が知れない男でして」
「今日、その男と会うんだね。ちょうど良いじゃないか。暫く泳がして何か出ないか見たいもんだ」
「今日は街外れの倉庫で悪い遊びを行うようです。女を手配していましたから」
よく見れば、二人ともそっくりな顔をしている。案外双子なのかもしれないとティムは思った。
「良く分かったね。そんな事」アニーがソファーの一角に腰を掛け、長い脚をテーブルに投げ出して言った。
「たまたま運が良かったのです。レナードに届く手紙をチェックしていた班が、その男、通称ヒデさんの手紙を見つけて、動向を追っていたのですが、そのヒデさんが派遣型の売春組織の手配師に合っていることが判り、その男を締め上げたのです」金髪のもう片方が、こちらも感情の混じらない声で声で答える。
アニーは腕を組んで天井を見上げながら煙草に火を点ける。煙がゆっくりと上がり中空に漂った。金髪の女二人が揃って眉を顰めた。どうやら禁煙派のようだった。
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