第13話

「なんだってそんな事を」とティムは、若干腰を浮かして言った。それを見たアニーがティムの肩に手を置いて動きを止めた。



 Dはまるで悪魔のように口元を歪めて嗤いながら言った。

「戦争だからだよ、ティム・ライム。平時であったという幻想は失われて戦時となったのだ。昨日、テムゼン市からの連絡が絶えた。公式な連絡網は壊滅。非公式な連絡網はまだ辛うじて生きているが、悲しい事に虫の息と言っても良い。どういう表現をされるか分からないけどね。これは侵略戦争なんだよ。結局のところ防衛任務、あるは再度奪還という事になるのさ。先立つものは情報という事で、僕は情報関連の組織長でとても忙しい。だからさ、君に悪魔になってもらうのはその為だ」



「つまり、忙しいので自分で自分の潔白をしろと?」

「半分正解と言ったところか。情報漏れは絶対に早急に防がなくてはならない。ただし、戦時体制の諜報組織の強化も最優先だ。どちらも両立しなくてはいけない」

「だからって嫌疑対象に自分で調査なんて聞いたことが無いですよ。そんなに人手が無いってわけですか?」



 Dは今度はややおどけて「足りなくなったんだよ。事が急転直下したからね。公王の諮問だってある。でだ。いい人材を探していたところ、頃合いの人物が見つかったという訳だ」

 なんという性格の悪さだと思いながら、併せて自分の運の悪さを呪って、ティム・ライムは眉間に強く皺を寄せる。



「容疑を晴らさねば、君が犯人。だから一生懸命やって犯人を見つけてくれ。アニーは君の護衛だ。君が逃げ出そうとしたときに捕まえる役も兼任してもらう。その際は殺しても良いと指示を与えているから、変な行動はしない方が良い」



 アニーは微笑みながら「まぁあまり手を掛けさせるんじゃないよ。出来れば『私が犯人』と白状してくれると嬉しい。あんたの頭をぶっ飛ばして終わりにできるからね」と言い放つ。



 Dは「よいしょ」と立ち上がって、「報告は定期的に行うように」と言いながら部屋を出て行ってしまった。アニーを見るとエメラルドグリーンの瞳を輝かせて、魅力的に微笑んでいた

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