第12話
「レナード・ヘスも内偵しているという事はつまり容疑者は僕だけではないって事ですか」
「その通り」ティム・ライムの言葉にDは感情を交えず答えた。
「事件発覚後、情報局は数人のベゼリングに情報を提供している容疑者を断定した。その内の一人は勿論ティム・ライム。君の事だ。もう一人は兵器省担当官のレナード・ヘス。更には魔法省窓口業務担当のダンジー・ポロック。それぞれ監視の目を付けようとしているが、一番怪しい君は特に早々に拘束させてもらった」
Dは青白い顔を向け乍ら言う。良く見れば目の下が青黒くなって隈に縁どられていた。事件発覚後の行動なので、寝ていないのかもしれないし、実はもともとこういった顔なのかもしれない。エルフ種らしく玲瓏な顔つきだが、粘る様な感情をその目に宿していた。
「紹介しようか。彼女はね。パストン国準軍事組織の特殊作戦部門の一員だ。今回の件について私が獲得した強力な戦力だよ」
「
パストン公国にも騎士団はある。
公王の騎士団として勇名をはせるパストン公国騎士団の入団資格は、貴族の子弟である事となっている。これはつまりは元々は騎士団が公王の側近を務めてる事に由来しているためだった。
つまり実際は戦闘団というより政治家としての側面の方が強い。
軍事的な意味合いとしての騎士団は、その本家騎士団の下部組織としての集団に求められ、複数あるその集団の中でも最も
正式な作戦ではない機密性の高い非正規戦を戦う組織とされていて、組織の性格上ほとんどの情報は明らかにされていない。噂では半ば冒険者崩れやマフィアのような荒くれものをまとめた組織で、少し間違えれば取り締まられるような人間をまとめた組織と聞くこともある。
ティム自身はそう言った印象を抱いたことはないが、所謂『名誉』からはかけ離れた組織であると蔑まれることの多い組織だった。
「―――なんでって、そりゃ勿論荒事の可能性が」と言いかけたDの言葉を奪うようにしてアニーが続ける。
「結局、他国のスパイを狩り出すって話なんだろう? 偶には『人狩り』も面白いかと思ったのさ。ところがまず見せられたのがこんな優男とは意外だよ」
アニーはテーブルの上に拳を置いて、ティムを覗き込む。
「軽く小突けば囀るんじゃないか。膝を折ってやってもいいけれど」
ティムはふわりと匂う女の香りに顔を背けながら、「だから、違うんだって。僕じゃない。そうじゃない事をどう証明すればいい。証拠はないんだろう」
「ふふ、言うじゃないか。試してみる?」
よく見れば軽く吊り上がった目に愛嬌がある。しかし、どんな目に合わせられるかもわからない恐怖心の方が先に立った。
ティム・ライムは若干体を引きながら、「本当に僕じゃない。どうすればいいんですか。自分が犯人ではないなんて言う証明はできない。いわゆる『悪魔の証明』じゃないか、それを証明するのはあなたでしょう」と言った。
「『悪魔の証明』とはうまい事を言うものだ。確かに悪魔的だ」とDは面白げに言う。
「でも、私は君に悪魔となって証明をしてほしいと思っている。確かにね、君を告発するのは官憲側の私の仕事なのだろうが、それは表向きの仕事の話に過ぎない。君は君の無実を君自身で証明をしてほしい」
「つまり」
「そう、つまり、君は自分がスパイではないと言いたいのであれば、犯人を見つけて欲しいのさ」
Dは事も無げにそう言い放った。
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