第11話
腋に汗が滑っている。顔に出ない性質であるのがありがたかった。
「いや、ばれている。ばれているんだって、ティム・ライム君。リエゾン担当は君だと聞いている。兵器省に届いた封書を確認したところ、開封の形跡が認められた。これはね、魔術的な防護で決められた薬液で開封しないと痕跡が残るのさ。情報が洩れるとすれば
「そうとも限らないじゃないですか。確かに塔から兵器省に封書を届けるのは僕の仕事ですが、それこそダンジーさんが開けたのかもしれないし、兵器省に届けた後、担当者に確かに渡しましたが、そこから漏れた可能性だってある」
「君、ダンジー氏は友人なんだろ。平気で疑いを押し付けるようなことを言うかね」
「可能性の話だけですよ。それに届け先の兵器省が何故見過ごされているんです? 手順通りに封書が開けられていない事と兵器省が情報を漏らしていない事は関連しないじゃないですか」
「兵器省はそれはそれなりに情報に気を配っているのさ。扱っているものが兵器だからね。入りたまえよ」
Dは少し椅子の背もたれに反り返って、そう外に向かって声を掛けた。
鉄錆の浮いた扉が開き、赤毛の女が入って来た。
身長が高くスタイルが良い。
飾り気のない白いシャツに男物のパンツをはいて膝まであるロングブーツを履いている。豊かな胸と尻。そして腰は手で抱えられそうなほど細い。
「遅いんだよ。どれだけ待たせるのさ」
と赤毛の女は、女にしては低音の声で、まるで男のような言葉づかいで吐き捨てた。
「すまないね。アニー。こちら容疑者のティム・ライム君だ。ティム君。こちらアニー・コルト嬢。美人だろう?」とDは微笑みながら紹介した。
アニーと呼ばれた女はニヤリと笑って「へぇ」と呟いた。
「これが薄汚い売国奴って奴か。なかなか見られるモノじゃないけど、結構かわいい顔しているじゃないか」
「年齢は君とそう変わらないと思うけどね」とDはペンを弄びながら答える。
「いい加減にしてもらえませんか」とティムは思わず割って入る。「情報の漏洩は僕じゃない。良いでしょう。封書の開封は認めます。ただその後は普通に兵器省のヘス担当官に渡しました。受領だってある」
「レナード・ヘスだろう。奴は今ウチで内偵中さ。あのむかつくエロジジイから何が出るか楽しみだよ」とアニー。
「内偵中?」
「そう、現在兵器省の兵器計画担当官のレナード・ヘスは、我々の監視下にある。本人は気が付いていないと思うが、24時間体制で複数人で動向を見守っている」
同国人への監視行為という半ば違法に近い捜査を行っていると、Dはまるで世間話をするように告げる。
「ところが、昨日から酒場で女の尻を追いかける事しかしていない。どうなってんだ、あのおっさん。元々兵器省での評価は高かったが、女癖と酒癖が悪すぎて今はとっくに厄介者になっているのさ」
アニーは豊かな胸を迫り上げるように腕を組んで、小汚い天井を見上げて言った。
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