第9話
「ねぇ……ねぇ兄ちゃん。何やって捕まったの。ねぇ」
「いや、別に悪い事は……」
対面の鉄格子の奥からヒューマンのおじさんがしきりに声を掛けて来る。ティム・ライムは苦笑いを浮かべながら応じた。
「そんなまた。それだったら捕まるわけないでしょ。俺はね。痴漢。痴漢で捕まったのね。混雑した車両の中で可愛い子の近くに……」
「聞いていません」
「いいから聞いてよ」
「いや、良いですってば」
悪人ほど自白をしたがるものだと聞いた事がある。同室の男はひたすら自分の罪をティムに告白し歪んだ性癖を告白する。
大変迷惑だった。
全てが性犯罪であることを知りティムはこの男はもう牢屋の外には出られないんだろうと思った。
いや出すべきじゃないよね。
そしてそんなおっさんと同じ牢に入れられている自分を少し恨めしく思った。
―――あの日。
あの日見た魔道兵器の仕様書を思い起こせば、テムゼン市を襲った砲撃の正体はおのずと知れた。書面は魔法陣が複数枚。
これはティムには読むことが出来ない文字で書かれている。しかし仕様書の方は共通語で書かれており問題なく読むことが出来た。
破壊力の規模感から言って間違いないとティムは思った。広域に破壊をもたらすことが出来る魔術。
今後の戦争観を変える物になると思った。
ティムは封書をしまい届けた後で、ダンジーに会いに行った不在だった。気になることに次の日も不在は続き、そのまま忙しさに紛れてしまった。
「おじさんはね。昔から満員の鉄道のに乗ったら意味もなく奇声を上げたくなったものさ。ほらあれって密室でみんな大人しく乗っているだろう。澄まし顔でさ。それが我慢できなかったんだな。特に中途半端な混み具合の時は思いっきり奇声を上げてみたくなったものさ。でもね。気が付いたんだ。そんな事をするよりは、大人しい感じの女の子の傍によって匂いを……」
「おい、そこまでだ。変態」
気が付いたら牢屋の外に人が立っていた。
気配を感じなかったので驚いて見上げると、酷く痩せた白髪のエルフの男性が立っている。黒い厚手のローブを着込んで真っ白の髪を総髪にしている。
男の変態丸出しなコメントに耐えかねた様だった。眉間に深い皺が寄っているのが分かった。
「君、ティム・ライムだろ。そこの」
「は?」
「君だ。そこの黒い髪。ティム・ライム二級連絡官」
「あ、あぁ。はい」
返事をしながら立ち上がる。我ながら間の抜けた声を出した。
「取り調べをするから、ちょっと来て」
黒ローブの男はダルそうに牢屋のカギを開けて扉を薄く開いた。警護の人間が嫌そうな顔でそれを見ていた。
暗い廊下に連れ出される。
ティムは眉間に皺を寄せる。
「あの、どこいくんです?」
処刑されるのではという思いが頭を離れない。
仮に罪があるとして秘匿情報を盗み見た罪の筈だ。このまま処刑されることはない。頭の片隅に黒い穴がチラついた。
「君が知らないところだ。あるいは」と白髪の男は首を傾げた。「良く知るところかも知れん」
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