第7話
―――2か月後
パストン公国領、隣国べゼリング帝国と国境を隣接するテムゼン市は市庁舎や民家を含む広域な市街地に大規模の砲撃を受けたとの速報がマルメ市を駆け巡った。
宣戦布告もなく加えられた攻撃とこれほど大規模な破壊兵器の正体について、恐怖と怒りと憶測が籠った情報が官公庁を駆け巡り、市民の間には報復論が唱えられた。
テムゼン市市長は攻撃時は市庁舎に居た為死去した。同時に同市に存在していた親べゼリング帝国団体『結束の斧』による同市の騎士団、戦士団への襲撃の後『結束の斧』はテムゼン市の機能を掌握。その上で『結束の斧』のリーダーである、クルツ・フォイマンはべゼリング帝国への併合の歎願を行った。
こうしたことをティム・ライムは自室で読んでいた新聞で知った。
その数分後ノックされた扉を開けてみると、黒い外套を纏った男たちが数人部屋に押し込んできてティムを拘束し、市警本部にある牢獄に連行した。
ティムは拘束に抵抗をしなかった。
黒い外套を纏った正規兵だ。自分が抵抗したところで殴打されて昏倒されるだけだと思った。痛いのは嫌だったし、荒事は苦手だった。何しろ腕力がない。
両腕を縛られて下宿を出て行くところで、宿屋の主人とその妻のエルフが慄いた顔でこちらを見ていた。誤解だと言いたかったが猿轡をされているので、何も言う事が出来ない。
拘束の理由を聞くと、濃い髭の生えたドワーフの兵は「服務規程違反とのことだ。あんちゃん何をやったね」と答えた。
「何もしていないんだけどなぁ」と答えると、「そいつはお裁きの場で言うんだね」と意外に茶目っ気のある事を答えた。
寒気がある路上に突き出されて、頭を押さえつけられる。
用意された馬車に押し込まれようとしたところで、青い外套に身を包んだ女がこちらを見えているのが分かった。細身でフードから出ている髪の毛が濃い紫に見える。上手く顔が見えないが、鋭い視線をこちらに向けて来る。
知り合いかどうかと思ったが思い出すことが出来ない。
しかしあの感じは明らかに魔術師だった。魔術を行使する影響で魔術師は髪や目の色が少し変わった色になることがある。
ふつうは出ない、例えば紫がかった色に変色したり逆に全く色が落ちて白色になったりする。青い外套は技術系の職務カラーだ。紋章がみえればもっとはっきりするが、ティムは魔術師に違いないと思った。
魔術師は長い期間研究が必要な職業な為老人が多い。しかしあの魔術師はどうやらまだ若い。そして女だった。唇が緩やかにカーブを描いて笑みを浮かべる。その唇だけが白と黒の光景の中で赤く見えた。
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