集~つどい~ 其の伍

 章臣の死があまりにもあっさりと過ぎ去ったのは、彼の家族が直葬を選んだからかもしれない。

 喪服を着る暇もないまま、花音たち三人は章臣の実家に挨拶に行き、その足で静かな個室和食屋に入った。

「章臣の行動が理解できない」

 遼一がビールを一口あおって、溜息のように言葉をこぼした。

「警察に話聞いたんだろ?」

 洋介が訊くと、遼一は小さくうなずいた。

「あいつの家とは反対方向の駅で電車に撥ねられたらしい。防犯カメラに、撥ねられる直前に誰かと電話してる様子が映ってたんだが、通話履歴は残ってなかったから、警察は章臣が精神錯乱状態だったんじゃないかと言ってる」

「マジかよ……」

 洋介は床に目を落として、章臣との最後の会話を思い出そうとしていた。温かい店内のはずなのに、花音は肌寒さを感じていた。

「自殺なの?」

「どうもそうらしい。だけど、聞いた話じゃ、誰かに押されたような動きをしていたらしい。でも、章臣の近くには、誰もいなかった……」

 三人とも、章臣を死に追いやったのが何者なのか、言わずとも分かっていた。ただ、春原さくらが命を奪う段階までやって来たことを認めるのが恐ろしかった。

 しばらくして、鍋が運ばれてくる。三人は黙ったまま粛々と箸を進めた。

「こうなると、奈々のことが心配だよ」

 奈々との連絡手段もなく、花音たちの家にも姿を現さないせいで、彼女がどこで何をしているのか誰も知らなかった。

「あの霊媒師、結局何もできねえじゃねえか。でかい口を叩くだけ叩いて、章臣も奈々も守れなかったじゃねえかよ……」

 舌打ちと共に箸を置いて、洋介は恨み節を垂れる。

「奈々はまだ分からないよ」

 花音が返すが、遼一は冷静に言い放つ。

「あの病室の状況で何事もありませんでした~は、どう考えても楽観的過ぎるだろ」

「じゃあ、奈々が死んでてほしいわけ?」

「そんなこと言ってないだろ……」

 花音は感情的になってしまった空気を換えるようにその場に座り直した。

「とにかく、道上さんのところにもう一度行ってみよう。これ以上、何もせずに待っているのは良くないよ」

 三人の間で結論が導かれた。そこへ、どこからともなく羽音を立てる蠅がやって来て、鍋のまわりを飛び始めた。洋介が舌打ちをして追い払おうとすると、一匹また一匹と、蠅が現れる。耳障りな羽音が室内を埋め尽くし、黒いもやのように蠅が集まってきた。

「なんだよ、これ!」

 遼一が個室の襖を開いて店員を呼ぶ。駆けつけた店員が部屋の中を覗くが、蠅の姿などどこにも見当たらないのだった。

「あははは!」

 店員が表情なく笑い声を上げた。その笑い声はまさしく、花音たちを追い込んだ恐ろしい音の響きそのものだった。

「おい、あんた!」

 遼一が店員の肩を掴むと、驚いたような視線が返ってくる。

「なんですか……?」

 店員が怯えたように遼一を見つめ返し、

「何も問題ないようでしたら、失礼します」

 と憤りを押し留めたような声を残して去って行った。

「ふざけんなよ!」

 洋介が椅子を蹴り飛ばす。

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