集~つどい~ 其の弐
四人は病院近くのレトロな喫茶店に入り、神妙な面持ちで一様にコーヒーを頼んだ。窓は白いすりガラスを基調にしたステンドグラスで、色鮮やかな光が店内に降り注ぐようになっていた。四人は窓際の席と通路を挟んだボックス席で膝を突き合わせていた。
話し合うとは言ったが、花音にはこの先の指針などあるはずもなかった。言葉もなく、ただコーヒーの熱だけが失われていく。
「僕のせいかもしれない」
突然、章臣が小さく口を動かした。花音は縋りつくようにテーブルの上のように乗り出すように応えた。
「どういうこと?」
章臣は暖かい空調のせいなのか、脂の浮いた額を乱暴に撫でた。
「春原から貰ったキーホルダー、ずっと捨てられなくて……」
「ほら、やっぱりお前のせいじゃねえか」
洋介が吐き捨てるように口にする。花音は彼を一瞥する。
「まだそれが原因か分からないでしょ」
「原因って」遼一が鼻白んだ。「そんなの考えなくても分かる。俺たちがあいつを殺したせいだ」
あまりにも飾り気のない罪の露出に、三人は冷や水を浴びせられた気分になる。店内に薄く流れる音楽だけが時を告げる。
「でも」長い沈黙を破ったのは、またしても章臣だ。「霊は何か依り代がないと現世には干渉できないはずでしょ。だから──」
「知らねえよ、そんなの」
洋介が鼻で笑う。章臣はそれだけで口を噤んでしまう。
「でもさ、何もやらないよりはマシじゃない? そのキーホルダーを処分しちゃえば……」
「そんな非現実的なことで……」
遼一はバカバカしいと言わんばかりにそっぽを向いたが、
「でも、私たちが体験したのは、非現実なことだよ」
と花音に返されて言葉に詰まってしまった。章臣はスマホを取り出した。
「これからお焚き上げしてくれる神社探してみるよ」
花音はうなずいた。
「じゃあ、これから章臣くんの家に行って、キーホルダーを取って、神社に行く……。二人もそれでいい?」
二人は渋々うなずいた。洋介は溜息をついた。そして、向かい側に座る章臣に恨みがましい目を向けた。
「なんでいつまでも持ってたんだよ。さっさとそんなもの……──」
言葉が途切れたままになって、花音が洋介に目をやると、彼の視線が章臣を通り越してステンドグラスの窓に注がれていた。
すりガラスの向こうにじっと立つ人影がおぼろげに浮かび上がっていた。
「うわ!」
章臣の声がして、目の前の冷めたコーヒーが血のような深紅に変わって、どんどん溢れ出す。テーブルが血みどろになって、まだまだコーヒーカップから血が湧き出した。テーブルの端からびしゃびしゃと滴り落ちる。
「いや!」
「お客様……?」
向こうから喫茶店のマスターが訝しげな目を向けていた。四人がテーブルに視線を戻すと、テーブルには血の汚れなどひとつもなかった。
四人は顔を見合わせた。
──早くキーホルダーを処分しなければ。
***
「汚ねえ部屋」
章臣が玄関のドアを開けて開口一番に洋介が言った。そのまま靴のまま上がろうとする洋介に、章臣は刺々しい声を投げた。
「靴脱いでよ」
「勘弁してくれよ……」
三人は顔をしかめながら靴を脱いで、章臣の後について部屋の中に足を踏み入れた。章臣は電気をつけると、足で床のゴミをどけながら、クローゼットの扉を開いた。中から、木箱を取り出すとその蓋を開ける。
「あれ……、ない」
章臣は途端に慌てふためいたように部屋の中を見回す。そばの花音が背中をさすらなければ叫び出しそうな勢いだった。遼一はゴミ部屋を見て、
「こんな散らかってたら見つかるわけないだろ」
と言った。
「違うんだよ……! この箱に入れてたんだよ……!」
「処分する手間がなくなったな」
そう皮肉る洋介の目は心労でくすんでいるように見えた。花音はパソコンが置かれたデスクの上に黒いカードを見つけた。
「ねえ、これなに?」
黒いカードの真ん中には白い文字で<霊媒師・
と記されている。
「ケースワーカーの中西って人が置いてった」
遼一はカードを覗き込んで、鼻の頭にしわを寄せた。
「バカ! こっちを最初に思い出せよ!」
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