集~つどい~
集~つどい~ 其の壱
重苦しい空気がその病室には充満していた。ベッドの上には、やつれた様子の
そのベッドを囲んでかつての四人の仲間が椅子に座っている。年が明けてしばらくした窓の外は寒々しい陽光が満ちている。
「こんな再会になると思ってなかったけど……」
「俺たちは終わりだよ……」
その隣で、久しぶりの部屋の外に出た
「俺たち、どうなるんだ……?」
すっかり憔悴しきった
「どんな場所でも聞こえるんだ、あの足音が……」
ぺたぺたぺた、ぺたぺた……。
遼一は裸足で床を歩くその足音に身を震わせた。
「ほら、今もそこにいるんだ……」
奈々以外の三人も、その音を初めて耳にして、身を強張らせていた。
「あはは……」
弾むような笑い声が聞こえて、五人が一斉にびくりと身構えた。
「嫌だ!」
奈々が耳を塞いで悲鳴を上げる。すぐに花音が立ち上がって、奈々の頭を抱きしめる。
「大丈夫。みんないるから、安心して」
病室の蛍光灯が点滅した。章臣がそれを見上げて、すぐに俯く。
「春原なんだよ……!」
洋介が怯え切ってそう言った。遼一はうなずかざるを得なかったが、感情がそれを拒んでいるようだった。
「でも、なんで今頃なんだよ」
「分からない……。でも、私たちみんな……」花音は心身ともにズタボロの面々を見回した。「色んなものを奪われた」
「あんたのせいよ、洋介」
奈々が落ち窪んだ眼ですっかり意気消沈した洋介を睨みつける。さすがに、それは見過ごせないと思ったのか、彼は険しい表情を四人に向けた。
「俺だけじゃない! お前らだって同罪だろ!」
その言葉を否定できるものはこの場にはいない。章臣はボソリと呟く。
「きっと、呪いなんだ……。春原が僕たちを恨んでる」
その暗い声が発したものの意味を考えるよりも先に、
ばっしゃああぁん!
病室の蛍光灯が残らず弾け飛んで、破片が彼らに降り注いだ。悲鳴と共に頭を押さえた手や腕に細かい傷が走る。
「ぎゃははははっ!」
どたどたどたどた!
「うわぁ!」
洋介が病室を飛び出すのを合図にしたかのように奈々以外の三人も足を躓かせながら部屋を飛び出す。
「待ってよ! 置いてかないで! ここは嫌!!」
病室の中から奈々の絶叫が届く。すぐに廊下を走って来た看護師が病室の入口にやって来て、室内の惨状に絶句した。病室の蛍光灯は粉々になり、花が活けてあった花瓶も割れていた。その只中で細かい切り傷で肌を赤くした奈々が泣き叫んでいる。
続々と集まってくるスタッフを病室の外でなす術もなく立ち尽くして見ていた四人は、看護師たちに後を任せるというのを口実に、足早に病室から離れていった。
「なんでこんなことに! なんでこんなことに!」
もはや泣き叫ぶように遼一が言った。四人は靴音を響かせて階段を降りて、賑やかな病院のエントランスまでやって来た。
「とにかく、どうにかしないと……」
花音が息を切らせながら言ったが、遼一は怒りを露わにした。
「どうするっていうんだよ! あの頃に戻ってなかったことにでもするか?!」
周囲の人間が不機嫌な視線を寄越すのも構わずに、彼は声を荒らげた。その隣で、章臣が不快そうに口を開いた。
「そんなこと言ってないじゃん……」
洋介は耳聡くそれを聞きつけて、彼を突き飛ばした。体幹も弱っていた章臣はよろめいて床に尻をついてしまう。それを見下ろして洋介は近づく。
「じゃあ、お前がどうにかしろよ。あいつと良い感じだったんだろ?」
章臣はゆっくりと立ち上がりながら、
「良い感じなんかじゃなかったよ……。あの時、春原には付き合ってる人がいたらしい」
「そんなことはどうでもいいんだよ」過去に食い込んでいく章臣の眼差しを遼一が一蹴する。「俺は
洋介が鼻で笑う。
「お前に愛想をつかしただけだろ」
「なんだよ? お前みたいな遊び人と一緒にするなよ」
睨み合う二人の間に花音が割って入る。
「とにかく、どこかでゆっくり話し合おうよ」
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